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幸せに生きてきたんだから

夜に眠ってしまうのがこわい。ありったけのブルーライトで瞳を刺して、いつまでも目覚めている身体を保とうとするから、なんか全部が白く乾いたように見えてきて、部屋には私一人しかいない。毎日をただ苦しくて虚しいだけで終わらせたくないのに、かといって夜を延長すれば何かが変わるわけではないこともわかっていて、だけどたぶんわかっていない。早く眠った方がいいと宝石のような目をして言ってくる人は、どんなに鮮やかな今日を生きていたのだろう。今日が終わること、に感じる恐怖をわかってくれるのかな。見覚えのある天井の色。リセットできなくなったゲーム。保温性のない象牙色の布団の質量。緑色のビニール袋。そういえば、前に処方された菱形の薬はまだ残っていたっけ。睡眠薬は、翌朝の気分が最悪だから飲まなくなった。バッテリーが切れたように目を閉じて、また家にやってきた強盗に殺される夢を見て、朝起きると食べていないのに吐き気がする。丸ごとテニスボールを飲みこんだみたいに胃の中が苦しい。鳥になるよりもまず蛇になりたいと思う。申し訳ございません。朝から体調が優れず、本日はお休みをいただきたいです。体調管理ができておらずすみません。ふるえる手で連絡を入れてまたベッドに倒れ込む。窓からは冬の匂いがした。いつまでこうしていたらいい。私は私の臆病なところを好きになれなかった。

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