シラノに見る、人間ができる最大の自己犠牲。【映画:『シラノ』評】
映画『シラノ』、今日観てきましたよ~~!!
ミュージカルというか戯曲の名作だったんだよね、全然知らなかった。まだまだ知らない教養ばかりですわ、ほんとに。
エドモン・ロスタン作の本作は、初演が1897年12月28日にフランスのポルト・サン=マルタン座で行われた。
そもそも、この戯曲の主人公のシラノ・ド・ベルジュラックっていうのは、17世紀を生きた実在の人物で、剣術家であり、思想家であり、作家であった。映画にも登場した戦争で大けがを負ってからは、退役して作家に転向した。ちなみにSF小説の最初期の例である『太陽世界旅行記』というのを書いたのもこの人らしい。
しかし、旧知の仲の女性に恋をして、でも自分には不釣り合いだから、彼女が恋をしている男性の代わりに、彼女に充てた詩を書いて~みたいなくだりは、演劇オリジナルらしい。だから剣術家と作家(詩人)っていうところだけ借りてきたっぽいね。
さぁ、では映画版の感想いきましょう。
戯曲では、シラノは鼻が大きいことがコンプレックスだったみたいだけど、映画版ではピーター・ディンクレイジが演じていて、彼自身が小人症なのもあり、それがシラノのコンプレックスになっていた。
シラノは異常なまでに「美」を追求する男だった。冒頭では「美しい」劇場を汚す、「美しくない」演技をする大根役者をステージから引きずり落とした。それに自分に決闘を申し込んできた人物には、自身のコンプレックスを吐露しながら、自分の「唯一」の欠点を埋めるがごとく、強化されたその剣さばきを披露する。
鼻が大きいのと、背が小さいというのは、人間が抱えうるコンプレックスとして、あまりに大きな違いがある。背が低いというのは、だれが見てもそう思うし、それに隠しようがない。そして恋愛にも大きな影響を与えうるだろう。残酷かもしれないが、それが現実だとシラノの人生が表していた。
それゆえ、シラノは「社会から、他人から、そしてロクサーヌから、自分はどう見られているか?」というのを過敏に気にかけていた人物だった。それゆえ、自身はロクサーヌに愛されるわけがないと決めつけてしまい、彼女を高根の花としてみることで、良き友人止まりの関係に終始していることを受け入れていたのだ。
ロクサーヌはクリスチャンを愛していた。しかし戦争で彼は亡くなり、シラノとロクサーヌだけが残った。クリスチャンはシラノの外皮。皮が剥がれたシラノにとって、ロクサーヌに愛を伝えるためのアイデンティティが失われたシラノは、より内向的な人物になってしまう。
さらに、クリスチャンはシラノに「ロクサーヌに本当のことを伝えろ」と言われてはいたものの、「自分がロクサーヌに嫌われてしまうかもしれない」という恐怖感から、その約束を果たせずにいた。
しかし、彼にも突然死が訪れる。
その死の寸前、クリスチャンの恋文がすべてシラノからであると気づいたロクサーヌは、シラノのことを愛していたと告げる。しかし、シラノは「自分のプライドを愛していた」と答え、ロクサーヌの愛の告白には応答しない。これはなぜか?
これは彼なりの最後の優しさなのだ。
ロクサーヌよりも、自分のプライドを愛していると、ロクサーヌに告げることで、ロクサーヌが長年騙されていた責任を、自分だけに押し付けてしまったのだ。当初は、クリスチャンが発案した「なりすまし」だったが、それはすべて自分が仕組んだものだと、ロクサーヌに最後の嘘をつくことで、自分を犠牲にし、クリスチャンの名誉とロクサーヌの心を最後に救ったのだった。なんたる自己犠牲だろうか…
シラノの膨らんだプライドは、彼自身を一生苦しみ続けていた。人から嘲け笑われる外見を持っていたことから、自己肯定感をなんとか維持するために、詩に命を捧げ、それを用いることで、人前では出せない自分を白紙の上で作り出していた。
しかし、その人格は一番表出させたい場でだけ表すことができなかった。そう、ロクサーヌの前でだけは… 彼の膨らんだプライドと、彼の低すぎる自己肯定感は、ロクサーヌに自信の恋心と秘密を示すことを拒否していた。それゆえに彼は長きの間、自分の人生を生きることができていなかった。
だが、彼の最後の瞬間。その瞬間には、自分のプライドを守ることにした。自分の価値を維持したまま、彼は旅立っていった。ロクサーヌを置いて。『シラノ』は美しい曲たちとは裏腹に、あまりにも儚い物語だ。
『シラノ』、ミュージカル映画では人生ベスト級に素晴らしい映画でしたね~~ほんとにロケーションもすばらしくて、特にシチリア半島でのシーンは全部素晴らしかった。本当に本当に美しい映画だった。
あと、ロクサーヌ役のヘイリー・ベネットさんがめちゃくちゃ綺麗だったな…中世の絵画に出てきそうな外見で。調べてみたら監督の妻らしい。自分の妻が主演の映画撮るって…幸せ者だな、バカヤロー!!!
曲もぜんぶよかったな~ミュージカルでよかったと思うよ。
曲はアメリカの「ザ・ナショナル」っていうバンドが担当してるらしい。今後注目していきたいバンドであります。
こんな感じで!また明日~