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わたしの現在地 #6(セックス・コミュニケーションを易しく)

ここ1、2年の間に起こったことや感じたこと、今後についてを、4つの視点――「学び」「パートナー」「セックスレス事業」「仲間」で見返すことで、現在地を指し示すシリーズ、6回目。

お久しぶりです。この数回は長々と「セックスレス事業編」について書いてきました。が、今回がこのレス事業編のラストです。


もう1つの近未来のセックスレス支援

セックスレス事業の目標は「日本のセックスレスを半分にする」こと。そこに近づくために今思い描いているアプローチを、近未来のセックスレス支援と勝手に呼び、前回はその1つである”中学生の頃のような性的イマジネーションを育む”を書きました。(前回記事はこちら

性的イマジネーションを育むことは、いわばセックスへのモチベーションアップのアプローチです。一方、今回お話したい”セックスコミュニケーションを易しく”は、セックスに至るまでの心理的ハードルを下げるアプローチになります。

例えば、自分としては今夜したいなと思ったとき、相手はどうなんだろう、ざっくばらんな雰囲気なら「どう?」って聞けるけど、今日はそんな空気でもないし、疲れ気味のようだし、うーん今日はいっか。という風に、セックスのモチベーションは多少なりともあっても、セックスに至るまでのコミュニケーションへのハードルがあるという課題です。(注:この意味でのセックス・コミュニケーションであり、スキンシップを含むセクシュアルな行為のことを今回「コミュニケーション」の言葉には重ねていません。)

YES/NO枕の課題

セックスOKならYESの面を上に、乗り気でないならNOの面を上に、というグッズです。会話によるコミュニケーションを省くことができる点では一定の使い道のある商品です。

YES/NO枕の商品例
(https://giftmall.co.jp/giftrCkBvB/より転載)

ですが現実に我々は使いません。なぜでしょう。理由はいくつか挙げられます。

・Noだったら傷つく(Noの日が続くとさらに)
・Yes/Noが明確すぎる(間のニュアンスが無い)
・YES=セックスしたいと相手に思われる。
・状況により気分が変化するときもある。
・女性が使用するのが一般的と思われるが、「相手(男性)を受け入れるかどうか」という偏った態度となる。

これらを踏まえ、最も使わない理由として浮かぶのは、「枕を使うことがすなわち、セックスしたいかどうか・するかどうかの態度を明確に表明する行為になってしまう」というものです。

我々は、「セックスしたい」ということをなるべく相手に知られたくありません。もっと言えば、「あ、この人セックスしたいんだ」と相手に感づかれたくありません。この気持ちを表面には出さず、相手の「まんざらでもない」という空気を感じて始めて、言葉で「セックスしようか」、またはなんとなくの流れでセックスへと至る、そんなプロセスを好みます。

YES/NO枕は、自分の気持ちを「なんとなく」にしておくことができずに明確にさらけ出してしまう、という欠点があります。我々はセックスしたいかどうかをステルスにしておきたいのです。

もう1つの欠点は、時間的な視点であり、予め態度を決めておかなければならない、という点です。セックスは双方向のやり取りの結果生まれる動的な行為です。YES/NO枕は、おそらく寝室に入る数十分前に、するかどうかという態度を決め、それを固定しなければならない静的さが伴います。YESにしたのに、相手が発した言葉にゲンナリした時には裏返したくなりますし、反対にNOにしたけど、寝る前の相手のちょっとしたしぐさに情熱のスイッチが入ることもあります。この現実の寝室で起こる時間的な進展に、YES/NO枕は追従できない、という欠点があります。

批判的に語ってしまいましたが、もちろんYES/NO枕は、ベースとして日常的にセックスがあるカップル、いわばセックスフルなカップルにとっては有用に思われます。相手も自分もセックスがしたいという「明確な」気持ちを「いつでも」共有できているからです。(なおセックスフルといっても、常にお互いがしたいとは限らないことには留意しておきたいです)。ですが、月に数回、週に1~2回、というセックス頻度のカップルの場合、YES/NO枕はそうそう用いることができません。

セックス・コミュニケーションを易しくするには

YES/NO枕は、セックスに至るまでのコミュニケーションの困難さの一例として用いたものです。現実ではもっと多様なセックスにまつわるコミュニケーションの困難さがあります。例えば、いつものセックスとは違うことを試してみたいだったり、セックスに心理的または身体的な苦痛を伴っているとき、伝えることに気が引けてしまう、といった自分と相手の間に横たわるセックスに向き合わざるを得ないときのコミュニケーションです。

しかしながら、さきほど考えてみたYES/NO枕の欠点に隠れた願望、すなわち「自分の気持ちをステルスにしておきたい」、「気持ちを固定的にせず、時間的にまた相手との相互作用の結果の動的なものとして扱いたい」は、セックスにまつわるコミュニケーションにおいて共通的な願望ではないでしょうか。

そして、これらの願望を当事者の努力なしで叶える手段を見出すことが、このコミュニケーションを易しくすることにつながるのだと思います。

最後に、その手段について少し触れてみることにしましょう(よかったら一緒に考えてみてくださいね)。

手段1.セックスにまつわる自分の気持ちをステルスにする

目指したいのは、自分の気持ちを表明することなしに、相互がある程度満足できる方向性を合意することです。例えば今夜セックスしたいとき、セックスしたいと伝えることなく、相手の気持ちも汲んだ上で今夜セックスすることにする、というように。とても難しそうですね。

今思い浮かんでいるアプローチは2つあります。

1つ目は、「自分の気持ちを結論的な観点(例えば、YESかNOか)だけではなく、多くの視点で捉え・できることは伝え合い、結論については表明しない」というものです。多くの視点とは例えば、心身の状態、時間的な余裕、相手に感じる性的魅力、相手との信頼感、不安感の有無、等です。伝えにくいことも当然あるでしょう。ただ一部を伝え合わなくても、複数の視点を共有することで、結論的な思いをステルスにしたままに、二人でそれなりの合意を図ることができるのではないでしょうか。

2つ目は、第三者の介入です。今やAIでもいいのかもしれません。上のアプローチは、そうは言っても二人で合意できる方向性をゼロから見出す、という努力が伴います。第三者が、カップル双方の多様な視点と最終的にどうしたいかの気持ちを汲み取った上で、どういう方向性にすると良いかの「暫定の解」をカップルに示すというものです。暫定と書いたのは、その解がカップルにとってベストになるとは限らないからです。ただ、暫定の解が1つのきっかけとなり、それを基に二人でのコミュニケーションが促されるというプロセスが起こりえます。さらに思いつきになりますが、異なる視点をもった第三者が複数いても(複数の”暫定の解”が手に入る)面白いかもしれませんね。(なお、第三者の介入のきっかけはやはり当事者で作るしかなさそうです。このきっかけ作りの負担も無くせればよいのですが。)

手段2.セックスへの気持ちを動的なものとして扱う

「性的同意は相手に毎回確認する」「この前は〇〇プレイに相手が乗ってくれたとしても、今日OKかどうかは別物」という言葉を、性教育や性科学の文献などでよく目にします。それくらい、人の心理は時間的に状況的に変化しうるということだと捉えています。

一方で、都度都度気持ちを確かめるのは現実では正直面倒であり、何よりムードが壊れてしまうのではないか、という懸念が生じます。変わりゆく気持ちをそれとなく捉え続けるためのよい方法は何かないでしょうか。

現時点では抽象的な域を出ませんが、気持ちの変化だけに焦点を合わせること、あるいは間接的に常時モニターすることの2点が挙げられます。前者は、気持ちが変化した時だけ分かるようにすることで、都度都度の確認/表明を不要にするというものです。後者は、例えばですが、間接的に心理と繋がる心拍数のような身体情報を常にモニターすることで、確認/表明行為をサポートするというアイデアです。

どれもまだ柔らかいアプローチですが、セックスにまつわるコミュニケーションを易しくする手段・ツールとして1つでも形にすることができれば。そんなことを今回の記事で書いてみたかった次第です。

さて、シリーズ「わたしの現在地」のレス事業編はこれで一旦終わりです。次回は仲間編、ここ数年の私生活や仕事で関わってきた、今の自分を形づくっている仲間について記す予定です。

おまけで注記というか、本文では書ききれなかったことを3つほど記しておきます。ご参考までに。

①前回・今回と「セックスレス支援」という大風呂敷を拡げましたが、どちらかというと注目したのはセックスレス「予防」の観点に近いかもしれません。一方、もう数ヶ月~何年もセックスレスまっただ中というカップルには、性的イマジネーションを育んでも、セックスにまつわるコミュニケーションが易しくなっても、レスを解消することはそうそう簡単ではないのかもしれません。レスが続いている場合には、セックス云々に加え、パートナーシップそのものにも焦点を当てる必要があると考えています。

②レスの原因/アプローチには、身体的な症状(EDや性交痛等)もあり、その場合には今回述べたようなアプローチよりも、専門の医療的アプロ―チが適していると思われます。ただ私としては、現代のセックスレスにおいては、医療的介入よりもモチベーションやコミュニケーション面でのテコ入れが重要と考えており、これらの視点からのサポートを実現していきたいと考えているところです。

③今回、セックスにまつわるコミュニケーションを易しく、という主題でしたが、「難しいコミュニケーションだからこそ、セックスに至ったときの喜びもひとしお」という考え方もあります。私自身そう思っています。一筋縄ではいかないですね。

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