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『憂うつデトックス』

大嶋先生の著作『憂うつデトックス』を再読した。
今回はそのレビューをここに書いてみようと思う。

「不幸な未来」を想像してしまう

人間誰しも(FAPを受けている方は特に)、この先に起こるであろう「不幸な未来」を想像してしまい、憂うつな気分に陥ったことがあるだろう。また、実際にその通りの展開になってしまった!という方も多いと思う。私も例に漏れずその1人である。
本書のいう「憂うつ」とは、この不幸な未来を想像してしまうことで引き起こされる憂うつのことを指している。そして、そのような憂うつにどのように対処すればいいかが示されている。

本書を読む前に

まず、この本を読む前にひとつ注意しておきたいことがある。それは本書が近年の大嶋本の中では珍しく、キーワード・キーセンテンスの強調が全くない(=編集者によるガイドがない)という点である。
その点について、大嶋先生はブログでこのように仰っている。

…書き上がった原稿は催眠的なスクリプトがたくさん散りばめていあるので、多くの編集者さんは「なんじゃこりゃ?」という感じになることが多いのですが、この編集者の方は「え?このまま出してくれちゃうの?」とおっしゃる通り、あの青山ライフの社長みたいな感じで「どど~ん!」とスクリプトを崩さずに綺麗に出してくれて、原稿を見た時に私は泣けてきた。…


「緊張しちゃう人たち」20/3/24記事より引用

そう、大嶋先生が青山ライフ出版から刊行されている本と同様、ほぼ大嶋先生が書いたまんま、催眠スクリプト全開で書かれているのである。
そのため、近年の大嶋本に慣れている方にはある種の読みづらさがあるかもしれない。私も2週目なのに再読に2日はかかった。
ただし、私個人の経験則も入った意見だが、他の本より催眠効果は高いと思う。催眠スクリプト多用の大嶋本において「読みづらさ」は催眠に入るための鍵である。

脳の時間旅行

本書を理解するために必要な概念は「脳のネットワーク」である。大嶋先生はミラーニューロンという神経細胞の働きによって無自覚に人の真似をしてしまう、という仮説から「人間の脳は無線LANのように繋がっていて、そのネットワークから他人の情報を受け取ってしまう」という概念を提唱されている。いわゆる第六感とか虫の知らせといわれているものの正体はこれである、と。本書ではその仮説を更に掘り下げ、「脳のネットワークは時空を超え、過去・現在・未来の自分の脳と繋がることがある」とされている。私達が未来の不幸な出来事を想像して憂うつになるのは単なる気のせいではなく、起こりうる未来の自分の脳と繋がり、脳が未来にタイムトラベルしてしまったためであると位置付ける。
そして、未来を知ることで未来の展開が変わるとされる。テストの前に良い成績をおさめる自分を想像していたら、予想の斜め上をいく出題がされて散々な結果に終わってしまった、というのはまさにこれである。
未来の想像とは脳のネットワークの働きによって未来を知ることであり、私達はそれをすることでその後の展開を変えてしまうのである。

思考のブラックホール

アインシュタインは「重力が重くなるほど時間の進みは遅くなる」と言った。憂うつ状態になって思考に重みが出ることで、脳内にこの話と同じような状態が生じ、思考のブラックホールができてしまう。先のことを考えて憂うつになるのは、この思考のブラックホールの影響で時空に歪みが生じ、勝手に未来に飛ばされてしまっていたため。起こりうる不幸を想定して最悪の事態に備える、という考えが往々にして役に立たない(憂うつを増すだけ)で終わるのは、思考と時空の歪みの影響で未来に飛ばされてしまっていただけだからであり、そんなときの私達は肝心の今を生きることができていないのである。
憂うつな人はよく、いつまでも同じ不幸の話を繰り返し、そこから動けなくなることがあるが、それはこの思考のブラックホールにとらわれてしまっていることによる。

憂うつな未来を変えるには

本書ではこの憂うつな未来を変えるためのテクニックが提唱されている。
箇条書きでまとめると、

1.憂うつを「悟り」に変える
2.他人の未来から変えていく
3.「成功の未来」と「失敗の未来」を活用する
4.見える未来の長さを短くする
5.未来を「考えない」

このテクニックの内訳を詳しく記すことはレビューではなく内容の暴露になるため、詳細は本書を読んでご確認いただきたい。私の感想のみ述べると、2・3・4は比較的簡単にでき、1と5はちょっと練習が必要といったところである。
ここで肝心なのは、憂うつな未来は変えられるということである。未来の選択肢は無限であり、憂うつな私達はその中の一つに過ぎない失敗の未来を見てしまっていただけなのだ。自分の選択で未来は良い方向に変わる。
そもそも、未来を想像して憂うつな気持ちになるのは成功の未来を生きる自分が別時間軸に存在しているため。成功の未来の存在を脳のネットワークで認識しているからこそ、それにも関わらず失敗の未来と繋がってしまっている自分に対して憂うつになるのである。

ナラティブ・アプローチ

ここまで読んできて、「本当に心理学の本なの?オカルトじゃない?」と思われた方もいるかもしれない。そのような向きのために、大嶋先生は最後で本書の種明かしをされている。本書はナラティブ・アプローチ(物語療法)の手法を用いて書かれた本であり、「脳の時間旅行」とは実証科学ではなくナラティブ(物語)である、と。
つまり、本書は「脳の時間旅行」というナラティブを用いた壮大な催眠スクリプトであり、憂うつな想像に対する新たな物語を提示して見方を変えてしまおう、というものである。
人は自分の人生にある種のストーリーを描いていて、良くも悪くもその通りに進んでしまう。右を見ながら車を運転していたら無意識に右折してしまうようなものである。本書はそこに対して別の新たなストーリーを提示して、憂うつな人生の軌道修正を図ることを意図している。
敢えて言うが、本書をまともに理解しようとする必要はない(というか、真正面から頭で理解しようとするとかえって混乱する)。それよりも本書を通して読み、全体に散りばめられた催眠スクリプトの誘導に乗っかってしまって、自然と成功の未来に導かれるという活用法が良い。

本書は、大嶋先生の著作を大抵読んできたはずの私にもとりわけ難しかった。それはとりもなおさず、上で述べた通り頭で理解しようとしたからだと思っている。FAP(大嶋心理学)の真髄は現代催眠療法である。その視点に立って読めば、本書は抜群の効果を発揮してくれるはずだ。

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