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夏男

夏男は思った。この会社は向かない。

あ〜あ、こんなにも身体中に纏わりつく鬱陶しい暑さと、水気を孕んだ青い高い空と、ジージージージーとまさに騒音以外の何物でもない蝉の大合唱と、圧倒されるような巨大な壮大な入道雲が憂鬱に感じるとは。

こんな日はアイスクリームが売れるのだ。次の日は納品数も増え、配送店舗も増え地獄と化す。

話を聞けば夏が好きという社員は誰ひとり居ない。

声を揃えて

「夏?ああ、マジで地獄だよ(笑)」

「夏なんて早く終わればいいのに。」

夏男にとって夏は産まれた季節であり、永遠の青春なのだ。

これまでの夏男の人生で思い出は酸いも甘いも全て夏にある。

これから起こる思い出も夏に起こるに違いないのだ。

しかし、このご時世、自分のような半端者を社員として拾ってくれた会社への恩義もある。養っていかなければならない家族もある。

もはや「夏」とは自分にとって何なのかを考え改めなければならない時なんだと夏男は悟った。

今日も夏男は為す術なく、時間に追われて空になったアイス売り場を満たしていくのだった。


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