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(小説)オムライスの魔法【第4章: 就活と恋心】
ここ最近、彼が急いで食事を終わらせるようになってから、私はどうしてもその理由が気になって仕方がなかった。以前のように、彼と少しでも会話ができれば安心できるかもしれない。けれど、今はその機会すらない。彼が店に来るたびに、私はただオムライスを運び、彼が去っていくのを見送るだけだった。
ある日、彼が店に来た時のことだった。いつも通り、オムライスを注文し、黙々と食べる彼を見つめながら、私はつい心の中でつぶやいてしまった。
「私、何か気に障ることを言ってしまったのかな…」
そう考えると、胸の中に不安が押し寄せてきた。以前は、彼が私に対して少しでも興味を持ってくれているような気がしていた。あの短い会話の中にも、彼の優しさが感じられたのに、今はその余裕すらないように見える。
彼が「ごちそうさま」と言って席を立つと、私は思い切って声をかけようとした。しかし、言葉が出ないまま、彼は会計を済ませ、いつも以上に足早に店を後にした。
「…どうして?」
彼の後ろ姿が見えなくなるまで見送りながら、私は一人でつぶやいた。理由がわからないまま、私の心は次第に重くなっていった。
その日の夕方、店が少し落ち着いた頃、私はついに綾乃さんに相談することにした。彼女はいつも頼りになるし、正直に話せば、何かアドバイスをくれるかもしれない。
「綾乃さん、最近…あの男性、何か私のことを避けているように感じるんです。」
私が話し始めると、綾乃さんは真剣な表情で耳を傾けてくれた。
「避けてるって、どういうこと?」
「わからないんですけど…前は少しでも話をする余裕があったのに、今はもう全然なくて。何か私、嫌われるようなことしちゃったのかなって…」
言葉にすることで、自分の不安がますます大きくなるのを感じた。私は心の中で、彼との会話を何度も反芻してみたけれど、どこが間違っていたのかがわからない。
綾乃さんはしばらく考え込んだ後、優しい声で言った。
「桃ちゃん、きっとそんなことはないよ。彼が忙しいだけだと思う。仕事が大変だと、人はどうしても周りが見えなくなっちゃうこともあるし、何より、そんなに短い時間で彼が君を嫌いになる理由なんてないと思うよ。」
「でも、前みたいに話ができなくて、なんだか寂しいんです。」
私の声は少し震えていた。彼と話せないことが、こんなにも自分にとって大きなことだとは思っていなかった。私は、もしかしたらこの気持ちがただの興味以上のものであることに気づき始めていたのかもしれない。
「わかるよ、桃ちゃん。でもね、無理に話をしようとしなくてもいいと思う。彼が少し落ち着いたら、また自然と話せる機会が来るんじゃないかな。」
綾乃さんの言葉に、私は少しだけ安堵した。確かに、彼が落ち着いて、また話ができるようになる日が来ることを待つしかないのかもしれない。それまでは、彼をただ見守り、応援することしかできないのだろう。
「ありがとう、綾乃さん。少しだけ気が楽になりました。」
私は感謝の気持ちを込めて、綾乃さんに微笑みかけた。彼女の言葉に救われたとはいえ、まだ心の中には不安が残っていた。けれど、私はそれを少しずつ受け入れながら、また彼と話せる日を心待ちにすることに決めた。
その夜、家に帰ってからも、私は彼のことを考え続けていた。彼が忙しいだけであれば、やがてこの状況も改善されるはず。そう信じて、私は眠りについた。