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死に際しても創造への情熱を途絶えさせない寺山修司の意思の生命力をリスペクトやオマージュにあふれた脳内劇に展開。香取慎吾の刺激的な表現映える…★劇評★【舞台=テラヤマキャバレー(2024)】

 就職して東京で暮らし始めたころ、中央線の電車の車窓から毎日、阿佐ヶ谷の、ある大きな病院を眺めていた。そこには寺山修司が入院していた。やがて最期の場所となるその病院。私は演劇への興味はまだ人並みよりは多少強いという程度だったが、寺山が若者に向けて発するメッセージが好きだった。既に混沌としていたこの社会をどうやって歩いていけばいいのか。寺山が誘うのは突破口のような分かりやすい出口ではなく、むしろ迷路への入り口のような妖しいドアだったが、混乱を極めていた自分たちにはうってつけの扉だった。しかし寺山は、日本を置き去りにしたまま、死の深淵の中に没した。それから昨年2023年で40年。ロンドンで寺山が率いる劇団「天井桟敷」の公演を見たことがあるという貴重な体験をしている世界的な演出家で、日本の俳優やクリエイターとも数多くのコラボレーションを続けているデヴィッド・ルヴォーが、死に際して寺山が死神とやり取りをする中で生まれたわずかな時間の中の3つの世界を演劇というかたちで描き出した舞台「テラヤマキャバレー」が上演されている。それは寺山や寺山を構成するすべての要素に対するオマージュやリスペクトであるとともに、現代の人々が抱かずにはいられない「今のこんな世の中を寺山が見たら、どう感じるのだろう」という疑問にもひとつのヒントを与えてくれている。虐げられしもの、消え行くものへの切々たる視線を常に作品の中に盛り込んでいた寺山の思いが現代の劇場でどんな息づかいでたたずむのかを試す壮大な実験でもある。そこに寺山に扮した香取慎吾の刺激的な表現が映えた。(写真は舞台「テラヤマキャバレー」とは関係ありません。単なるイメージです)。

 舞台「テラヤマキャバレー」は2024年2月9~29日に東京・日比谷の日生劇場で、3月5~10日に大阪市の梅田芸術劇場メインホールで上演される。
 
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★無料のブログでの劇評は序文のみ掲載し、それ以降の続きを含めた劇評の全体像は通常はクリエイターのための作品発表型SNS「阪 清和note」で有料(300円)公開していますが、今回は特別に大阪公演終了まで全文無料で公開します。期限が来たら予告なしに有料に変更しますのでお気を付けください。
 なお劇評の続きには作品の魅力や前提となる設定の説明。香取慎吾さん、成河さん、伊礼彼方さん、村川絵梨さん、凪七瑠海さんら俳優陣の演技についての批評、池田亮さんの脚本やデヴィッド・ルヴォーさんの演出・舞台表現に対する評価などが掲載されています。場合によっては、特定のスタッフワークについて言及することもあります。

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★舞台「テラヤマキャバレー」公式サイト

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