マガジンのカバー画像

<エンタメ批評家★阪 清和>ミュージカル劇評数珠つなぎ

126
阪清和が発表したミュージカルに関する劇評をまとめました。ジャニーズ関連のミュージカルはここには収容しません。音楽劇を入れるかどうかは作品ごとに判断します。
いま大きな注目を集める日本のミュージカル。臨場感あふれる数々の劇評をお読みいただき、その魅力を直に…
¥777
運営しているクリエイター

#海宝直人

官能的で神秘的な何ものにもかえがたい濃密な時間。どこまでも研ぎ澄まされていく文学的純粋に陶酔にも似た感情に包まれる衝撃的な傑作…★劇評★【ミュージカル=ファンレター(2024)】

 ネットで文章を書き込んだことがある人なら誰でも、自分の文章が読む人に思いもかけない影響を与えることがあることを知っているだろう。私ももう20年以上前に、ネット上で知り合ったある人の相談に乗っている時に「こんなふうに決断してみたら」と書いたら、その人が私のアドバイスに従って1週間後に人生最大の決断をしてハワイに旅立ってしまったことがある。「あなたの言葉が決め手でした」と去り際に言われてドキリとしたものだが、その人にとってそれは決して不幸せな決断ではなかったことを今は知っている

¥300

すずの柔らかなたくましさを丁寧に表現する昆夏美の繊細さ、シーごとの心情を的確に示す海宝直人の歌の表現力、アンジェラ・アキの語り掛けるような音楽の口調がミュージカルにも映える…★劇評★【ミュージカル=この世界の片隅に(昆夏美・海宝直人・桜井玲香・小野塚勇人出演回)(2024)】

 誰かと出会うということは奇蹟に違いないのだが、その過程でどちらかがどちらかを「見つけている」。それこそが奇蹟なのだ。こうの史代の漫画「この世界の片隅に」に流れるこの奇蹟への賛歌は、ミュージカル化されたことでより高らかに謳い上げられ、私たちの胸を打つ。戦争という無限の地獄にも思える世界の中でも人は生を生き、それぞれの輝きをきらめかせる。この広い広い世界の中でだれかが私を見つけてくれる。そしてそこがわたしの居場所になる、そのひそやかで、謎めいていて、そしてどこまでも深遠で確かな

¥300

禁断の想い人「不滅の恋人」とのもどかしい関係性を中心に、世間の無理解や難聴などとの闘いも散りばめてドラマティックに織り上げた作品に…★劇評★【ミュージカル=ベートーヴェン(海宝直人・佐藤隆紀出演回)―(2023)】

 ポップスの世界では「ジュークボックスミュージカル」というジャンルがあって、ひとりの音楽家の音楽をふんだんに使って、あるいは効果的につなぎ合わせて、ミュージカルを創り上げてしまうケースがあり、その成功例もまた多い。ミュージカルの内容も、その音楽家や歌手の伝記のようなものから、音楽の世界観を借りて新しい物語の中に定着させるタイプのものまで多彩な作品が世に送り出されている。しかしクラシックの場合、楽曲のふり幅が広く、そもそも現代のミュージカルの音楽とは演奏されるときのシチュエーシ

¥200〜
割引あり

繊細な演技でどこまでも役を掘り下げる安蘭けいの圧倒的な説得力…★劇評★【ミュージカル=ネクスト・トゥ・ノーマル(安蘭けい・海宝直人・岡田浩暉・昆夏美・橋本良亮・新納慎也チーム)(2022)】

 オフ・ブロードウェイでの好評を受けて2009年にプロ―ドウェイにミュージカル「ネクスト・トゥ・ノーマル」が登場した時、観客の目には、心の病をテーマにしたこの作品の内容は複雑でややとんがったもののように見えたかもしれないが、2013年の日本初演、そして今年2022年の再演と時を経た今、心の病は誰にでも訪れる可能性があり、すぐそばにある切実な問題だという認識が広がっていることで、見え方が全く違ったものになっている気がする。心の病は自分が直面している問題でなくても、家族や親しい友

¥300

古代へのリスペクトがミュージカル化成功の秘密、海宝直人のまっすぐな歌唱力と神田沙也加の多彩な表現力が貢献…★劇評★【ミュージカル=王家の紋章(海宝直人・神田沙也加・大貫勇輔・新妻聖子・前山剛久・大隅勇太出演回)(2021)】

 歴史には進化の加速度が不可解なほど急激にアップしている時期がある。画期的な発明や天才の出現などによるものとする解説は多いが、文明の先達である未来人なり宇宙人なりが、その時代に降り立ち、新しい技術や考え方を教えたと解釈する方がさまざまな物証や傍証の説明がつきやすい時がある。もちろんすべてがそうだとは限らないだろうが、タイムマシンは未来永劫発明できないとは誰も言い切れないし、発明されていれば過去にはいくらでも行けるはずだ。そして宇宙にはわれわれ地球の人類的には古代の時代であって

見えたのは、互いの限界や可能性をすべて知った上で、さらに演技のレベルを上げ、さらにはみ出せないかを虎視眈々と狙っている野心的な顔…★劇評★【舞台=ジャージー・ボーイズ チームWHITE(2018)】

 いわゆる「ジュークボックス・ミュージカル」というのは、その作品のために書き下ろされた曲ではなく既成の曲を使ったミュージカルやミュージカル映画のことを意味するが、「マンマ・ミーア!」の大成功以降、安易に曲を羅列しただけのものや、雰囲気だけをあてはめて楽曲を散りばめただけの作品も乱発され、ジャンルとしては評価が大きく分かれ、玉石混交であることは否めない。そんな中でも、「マンマ・ミーア!」が楽曲群にオリジナルの物語を付与したタイプとして高い評価を受けているのに対して、その楽曲を持

¥300

この物語こそまさしく禍福が縄のようにより合わされた人々の生の営みの集大成…★劇評★【ミュージカル=レ・ミゼラブル(佐藤隆紀・上原理生・知念里奈・屋比久知奈・海宝直人・熊谷彩春・駒田一・朴璐美・小野田龍之介出演回)(2019)】

 これほど練り込まれた物語も少ないだろう。中国や日本には古いことわざから由来する「禍福(かふく)は糾(あざな)える縄の如(ごと)し」という言葉があるように、より合わせた縄のように幸福と不幸、喜びと悲しみは表裏一体で、目まぐるしく変化していくということは私たちが自らの人生で日々実感していることだ。まさに真理に近い。だからといって幸せは続かないと嘆くこともないし、逆に逆境にある人にとっては反転攻勢への強い味方にもなってくれる言葉でもある。つまり、禍福とはまさしく人生そのもの、それ

¥300