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<エンタメ批評家★阪 清和>ミュージカル劇評数珠つなぎ

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阪清和が発表したミュージカルに関する劇評をまとめました。ジャニーズ関連のミュージカルはここには収容しません。音楽劇を入れるかどうかは作品ごとに判断します。
いま大きな注目を集める日本のミュージカル。臨場感あふれる数々の劇評をお読みいただき、その魅力を直に…
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#木下晴香

官能的で神秘的な何ものにもかえがたい濃密な時間。どこまでも研ぎ澄まされていく文学的純粋に陶酔にも似た感情に包まれる衝撃的な傑作…★劇評★【ミュージカル=ファンレター(2024)】

 ネットで文章を書き込んだことがある人なら誰でも、自分の文章が読む人に思いもかけない影響を与えることがあることを知っているだろう。私ももう20年以上前に、ネット上で知り合ったある人の相談に乗っている時に「こんなふうに決断してみたら」と書いたら、その人が私のアドバイスに従って1週間後に人生最大の決断をしてハワイに旅立ってしまったことがある。「あなたの言葉が決め手でした」と去り際に言われてドキリとしたものだが、その人にとってそれは決して不幸せな決断ではなかったことを今は知っている

¥300

禁断の想い人「不滅の恋人」とのもどかしい関係性を中心に、世間の無理解や難聴などとの闘いも散りばめてドラマティックに織り上げた作品に…★劇評★【ミュージカル=ベートーヴェン(海宝直人・佐藤隆紀出演回)―(2023)】

 ポップスの世界では「ジュークボックスミュージカル」というジャンルがあって、ひとりの音楽家の音楽をふんだんに使って、あるいは効果的につなぎ合わせて、ミュージカルを創り上げてしまうケースがあり、その成功例もまた多い。ミュージカルの内容も、その音楽家や歌手の伝記のようなものから、音楽の世界観を借りて新しい物語の中に定着させるタイプのものまで多彩な作品が世に送り出されている。しかしクラシックの場合、楽曲のふり幅が広く、そもそも現代のミュージカルの音楽とは演奏されるときのシチュエーシ

¥200〜
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少年王の不器用さもさらけ出す人間的造形の浦井健治と、時代を超えた慈しみ表す木下晴香、朝夏まなとの熱演もあってますます深み増したミュージカルに…★劇評★【ミュージカル=王家の紋章(浦井健治・木下晴香・大貫勇輔・朝夏まなと・前山剛久・大隅勇太出演回)(2021)】

 タイムスリップものを創作する際に重要なのは、実は時代設定が「変化の時代」であるかどうかだ。外からの訪問者がたとえ新しい技術や知識をもたらす「進化の神」のような存在であっても、変化を受け入れない権力者や社会であっては、単なる異物として排除されたり、施政者を惑わせるために送り込まれた間者(スパイ)と思われたりするのがオチだ。その点、1976年から連載が続く姉妹漫画家ユニット「細川智栄子あんど芙~みん」による漫画「王家の紋章」を原作にミュージカル化された「王家の紋章」では、現代の

¥300

モーツァルトの地鳴りのような咆哮が聞こえてきそうな演技…★劇評★【ミュージカル=モーツァルト!(山崎育三郎・香寿たつき出演回)(2021)】

 第一級の作品を生み出し続けている限り、その根源が精神の中に存在し続ける神童と呼ばれたころの「才能」であろうと、それを利用してあたかも青年期以降の自分が創ったようにして称賛を浴びる現在の肉体であろうと、周りの人間にとってはなんら問題はない。むしろそれは「かつての天才」コンプレックスを抱いている「元天才」「元神童」の本人自身の問題である。しかしだからこそその苦悩は深く、そこを物語の主体としたミュージカル「モーツァルト!」が高い評価を受けている理由でもある。2002年に日本初演さ

¥300

弾けんばかりの躍動感と繊細な愁いのバランスが心を震わせるに十分…★劇評★【ミュージカル=モーツァルト!(古川雄大・涼風真世出演回)(2021)】

 才能が肉体ではなく精神に宿っているのだとしたら、それはその人物の才能と言えるのか。その答えは絶対的に「言える」だ。自堕落な肉体としての自分を覆い隠すほど高レベルな作品や成果を才能から享受しているのだとしても、それは誰にも分からない。「才能」というものに実体はなく、その人物がもう一人の自分を自分の中に創り出しているだけかもしれないし、すべては精神の中の物語だ。しかしながら、その精神と肉体、あるいは実態と才能の分離を物語の中に組み込んだ時、モーツァルトの人生はそう読み解くことで

¥300

ギャグや物語の展開にも批評精神やアイロニーが満載。逸脱しても物語を成立させる大野拓朗の演技が秀逸…★劇評★【ミュージカル=プロデューサーズ(大野拓朗出演回)(2020)】

 ショウビジネスの世界は厳しい。日本ではまだまだそんなことはないが、米国では出資者を募るところからスタートし、キャストやスタッフを決めて脚本や譜面が出来上がってもゴールではない。稽古を続けながらも出資者の厳しいチェックが入るし、詳細な情報も求められる。時には脚本に手を入れたり、出演者を差し替えたりすることも。主演俳優が交替することだって珍しいことではない。プレビュー公演は日本のように本公演の直前に数日間行うだけでなく、1カ月以上にわたることもしばしば。ここで次に進めるかが決ま

¥300

エンターテインメントの闇と愉悦にどっぷりと浸かった幸せな3時間。表情がくるくる変わる吉沢亮の豊かな表現力が大入りの会場を沸かせている…★劇評★【ミュージカル=プロデューサーズ(吉沢亮出演回)(2020)】

 ショウビジネスの世界は厳しい。日本ではまだまだそんなことはないが、米国では出資者を募るところからスタートし、キャストやスタッフを決めて脚本や譜面が出来上がってもゴールではない。稽古を続けながらも出資者の厳しいチェックが入るし、詳細な情報も求められる。時には脚本に手を入れたり、出演者を差し替えたりすることも。主演俳優が交替することだって珍しいことではない。プレビュー公演は日本のように本公演の直前に数日間行うだけでなく、1カ月以上にわたることもしばしば。ここで次に進めるかが決ま

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悲しみにさえ分け入って、さらなる感情を描き出している城田優の繊細なアプローチ…★劇評★【ミュージカル=ファントム(城田優・木下晴香・木村達成出演回)(2019)】

 オペラ座の地下に潜む何者かに私たちがこんなに惹かれるのは、その何者かがダークヒーローのようにスタイリッシュだからでも、モンスターのようにおどろおどろしいからでもない。私たちはその何者かに悲しみというものの本質的で根源的な何かを見ているからだ。アンドリュー・ロイド=ウェバー版「オペラ座の怪人」でもその悲しみは色濃く描かれていたが、脚本家のアーサー・コピットと作曲家のモーリー・イェストンによるもうひとつの「オペラ座の怪人」である「ファントム」にいたっては、その悲しみにさえ分け入

¥300