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#田代万里生
異常な出来事に人間が本来持っている可能性や優しさで向き合った人々の姿を通じて絆の本質をえぐり出したミュージカル。トップ俳優たちが「全員が主人公」の物語を演じ、演劇というものの新しい可能性さえたぐりよせた…★劇評★【ミュージカル=カム フロム アウェイ(2024)】
「9.11」。この数字の羅列、あるいは日付が特別な意味を持つようになったのは、あらためて説明するまでもなく米国東部時間2001年9月11日朝(日本時間11日夜)に起きた米中枢同時多発テロからである。主な標的となったニューヨークのワールド・トレード・センターやワシントンの国防総省ペンタゴンのほか、世界中の様々な場所での、それぞれの人の「9.11」があったはずだ。テロの手段として旅客機が使用されるという特殊性から、さらなる被害を防ぐため、テロの直後から領空が閉鎖された北米地区で
あふれ出す感情を新鮮な輝きと共に提示する花總まりの「集大成という名の始まり」、新世代のトートを確立しようとする古川雄大の執念…★劇評★【ミュージカル=エリザベート(花總まり・古川雄大・田代万里生・甲斐翔真・剣幸・黒羽麻璃央出演回)(2022)】
ミュージカル「エリザベート」の宝塚歌劇団での日本初演の際、世界最年少の22歳でエリザベートを演じた花總まりが今日まで26年もの間、その役柄を続けて来られたのは、王室内の抑圧や家族の不協和音などで苦しみ続けたエリザベートがそんな中でもまとい続けた「気品」を誰よりも忠実に再現して来たからだろう。喜びや悲しみ、そして怒りや虚無的な気持ちなど、人生のさまざまな時点において移ろってきたエリザベートを陰に日向に支え続けた誇りとでも言える気品が、花總自身をも成長させ続けてきたのであろう。
圧倒的な美と声量がもたらすハイグレードな山崎育三郎トートと屹立した女性像体現する愛希れいかのエリザベート。高い完成度に近づく命と魂のロンドが展開…★劇評★【ミュージカル=エリザベート(愛希れいか・山崎育三郎・田代万里生・甲斐翔真・涼風真世・上山竜治出演回)(2022)】
新型コロナウイルスの感染が拡大したため2年続けての再演のはずが3年ぶりとなったからと言って、ファンの心理がそんなに大きくかき乱されるものではないが、中止になった2020年の公演が、若くして数々のミュージカルを極めてきた山崎育三郎がついに黄泉の帝王トートを演じるはずの公演だったこともあって、ファンはこの3年間、ずいぷんと待たされた思いがしていたに違いない。今回は宝塚歌劇団時代から長くエリザベートを務めてきた花總まりがエリザベート役の集大成として臨むタイミングとも重なり、前回公
役に多彩な味付けを施しながら自分を投影していく自由な発想が見て取れ、この作品の世界観を大いに広げている…★劇評★【ミュージカル=マリー・アントワネット(笹本玲奈・昆夏美・田代万里生・上原理生・川口竜也出演回)(2021)】
「パンがないなら、ケーキを食べればいいじゃない」。フランス革命の当時に立憲君主制に対峙し抵抗していた立場の人たちが、マリー・アントワネットの放った言葉だという噂を広めたために、長らく彼女の傲慢さを表す言葉だと受け取られてきたこの言葉は、ルソーの小説の中にその起源があるものの、オーストリアでまだ幼かったマリーが知り得た言葉ではなく、実際にフランスで起きたパン不足の際にはマリーは飢餓に苦しむ人々にもっと寄り添った言葉をかけている。このためこの言葉は現代では、マリーではなく、その
華麗で壮絶な人生への痛切なレクイエム…★劇評★【ミュージカル=マリー・アントワネット(花總まり・田代万里生・昆夏美・佐藤隆紀出演回)(2018)】
どれだけ悪評が残っている人物でも、それが真実のすべてとは限らない。さまざまな観点から彼ら、彼女らを見ていくことは歴史的な人物を理解するためにはとても大切なことだろう。悪魔的な所業をしたわけではないのに、ぜいたくという一点において市民や庶民の怒りを買ってしまったマリー・アントワネットもまたさまざまな誤解の上で私たちが理解していることもあるだろう。今で言う世論操作やフェイクニュースの存在があったと考えてもおかしくない。「エリザベート」「モーツァルト!」などのミュージカルを東宝と
夢幻のベールに包まれながら、登場人物や私たちが「オペラ座」から続けてきた長い旅路の終着駅に連れていってくれる…★劇評★【ミュージカル=ラブ・ネバー・ダイ 石丸幹二・平原綾香・咲妃みゆ・香寿たつき・小野田龍之介出演回(2019)】
ミュージカルとして知られる「オペラ座の怪人」の原作はガストン・ルルーの同名小説だが、ミュージカル化の立役者で作曲家のアンドリュー・ロイド=ウェバーがミュージカル化した完全オリジナルの正統的続編が「ラブ・ネバー・ダイ」。ホリプロが日本人キャストで初演した2014年から5年ぶりに再演が行われ、連日盛況が続いている。しかしなんとも興奮するキャスティングが実現したものだ。主人公のファントム役には「オペラ座の怪人」日本人キャスト版を日本初演した際にファントムを演じた市村正親と、ラウル
全編に漂う愛の飢餓感と生と死が乱反射する物語の構造を早い段階でよく理解しているフレッシュコンビ…★劇評★【ミュージカル=エリザベート(愛希れいか・古川雄大・田代万里生・京本大我・香寿たつき・山崎育三郎出演回)(2019)】
ミュージカル「エリザベート」がこれほど愛されているのは、ただ単にファンがキュンとする勘所をきちんと抑えているからではない。「生」を「死」の側から見るという逆説的な視点がまずもっとも基本にあり、さらには死を司る黄泉の国の帝王トートと皇后エリザベート、そしてエリザベートと皇帝フランツという2つの愛を絡め合わせて描いていること、そして何よりもここでは愛はエリザベートにとってもフランツにとっても息子のルドルフ皇太子にとっても、トートにとっても、手に入れることの極めて難しい悲しみに満