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<エンタメ批評家★阪 清和>ミュージカル劇評数珠つなぎ

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阪清和が発表したミュージカルに関する劇評をまとめました。ジャニーズ関連のミュージカルはここには収容しません。音楽劇を入れるかどうかは作品ごとに判断します。
いま大きな注目を集める日本のミュージカル。臨場感あふれる数々の劇評をお読みいただき、その魅力を直に…
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2023年9月の記事一覧

対立と融和の米国史にあふれる同時代性。石丸幹二・井上芳雄・安蘭けいが綴る一大絵巻…劇評★【ミュージカル=ラグタイム(2023)】

 まだジャズが成立する前に、黒人たちが模索していた音楽がある。それは「ラグタイム」。さまざまな方法で裏拍を強調することである種のずれを生み、独特の浮遊感を聴く者に感じさせる手法で、その後のジャズの成立、隆盛にも大きな影響を与えた。まるでこの手法を使ったような方法で、白人、黒人、移民と米国を構成する3つの要素が絡み合いながら現代へと変遷してきた歴史を綴った一大叙事詩のミュージカル「ラグタイム」がカナダでの世界初演から実に27年にしてようやく、日本人キャストによる日本初演として上

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関係性に潜む真実。繊細な演技と歌、ピアノ演奏があいまり、俳優たちの原初的な才能とこれからの可能性を同時にきらめかせるような舞台に昇華…★劇評★【ミュージカル=スリル・ミー(尾上松也・廣瀬友祐出演回)(2023)】

 日本では犯罪の名前を人の名前で表現することはほとんどない。しかし米国をはじめとした欧米では、「〇〇殺人事件」というように犯人の名前を冠して事件名とする例がとても多い印象がある。はじめは「シカゴ殺人事件」と呼んでいたとしても、やがてはその犯人のキャラクターや犯行の特異性に注目が集まるようになると、名前が冠されることは多々ある。同姓同名の人への風評被害という懸念はあるにしても、そういった例が多いのが実態である。約100年前に米国シカゴ郊外で起きた誘拐・殺人事件もまた「レオポルド

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生きることの力強さと輝き。再演重ね備わってきたオリジナルミュージカルの風格…★劇評★【ミュージカル=生きる(市村正親・上原理生出演回)(2023)】

 「生きる」。この物語が世界中の人々の心を打つのは、よく練られた美談だからではない。死を目の前にして偉業を成し遂げた英雄譚だからでもない。監督の黒澤明自身も橋本忍や小國英雄と脚本を立ち上げながら、いかにこの物語を美談のように感じさせないかに腐心したというから、やはり肝心なのは死の恐怖に抗いながら進んだ主人公の美しさではなく、人生の最後の最後に短いながらも確かに歩んだ主人公の力強さなのだ。つまりは、生きることの輝きなのである。2018年に世界で初めてミュージカル化されたことで、

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