【雄手舟瑞物語#3-インド編】旅行1日目、ツーリスト・オフィスでキレイに引っかかる。その鮮やかさで僕は倒れたことに気づかない。(1999/7/27②)
インド・ニューデリー空港に着いてすぐタクシーを拾い、僕は市内(セントラル)に向かった。インド人運転手は、僕の希望通り”セントラル”のミドルクラスのホテルへ僕を案内した。ニューデリーのセントラルやミドルクラスのホテルがどんなものかよく分かっていない僕は言われるがまま「こんな感じか」と思いながら、ホテルのフロントに「一泊だけしたい」と告げると、ボーイはまあそれなりの部屋を用意してくれたのだった。「部屋は満足か?」と聞かれ、僕は「OK」と答えた。そして、彼らに促されるまま、とりあえずベッドに腰掛けた。
ボーイの他に、さっきの運転手がまだいる。さらに見知らぬインド人2人まで僕の部屋に普通に入ってきている。それも超自然な感じでいる。何やら見知らぬインド人二人は運転手の友達で、このホテルの近くで旅行代理店をやっているとのこと。いろいろ旅のプランとか紹介できるから、一緒にオフィスまで来ないか、と誘ってきたのだった。
僕はバックパッカーらしく何の計画も立ててなかったので、断る理由もないし、何より初めての海外、初めての一人旅で、こんな普通に外国人と会話している自分が誇らしく、当然のように「もちろん!」と親指を立て、「ところで、いつ行くんだい?」と調子よくジョークまで出てきた。そして、すぐに部屋を後にし、見知らぬインド人二人のうちのボスっぽい人と僕で、彼のオフィスへと向かった。
市内は閑散としていて、野良犬や子どもたちが道端で遊んでいる。インドの野良犬に噛まれると狂犬病になるらしいということくらいは聞いていたので、犬に噛まれるのだけは気をつけようなどと思っていると、本当にすぐに「ここだ」と、オフィスに着いた。オフィスはホテルの斜向いの一階にあり、ガラス張りの窓の上には「Tourist Office」という看板が掛けられ、事務机が一つある程度のこじんまりとしたオフィスの壁には観光地の写真やチラシなどが飾ってある。至ってそれっぽい場所だった。
中に通されて、お互い椅子に腰掛けると。ボスは、「ようこそ、インドへ」とフレンドリーな笑顔を浮かべて、本当に優しい感じで、「自分たちは旅行代理店でツアーを組んだりしているんだ。」と説明を始めた。僕はニコニコしながら聞き始めた。本当のところはホテルでまだ開いていない地球の歩き方を読んで、これからの予定についてゆっくり思いを巡らせたいなと思っていたので、ちょっと面倒くさい気持ちもあったのだが、「折角だし、まぁ直接いろいろ聞けるかもしれないし、ちょっとくらいは構わないか」と思い直して、聞いていた。
「ニューデリーからのツアーだと、一番人気なのはニューデリー、ジャイプル、アーグラを巡るコース。ジャイプルは宝石の街。アーグラはタージマハルがある場所だ。」チラシを見せながら、説明が続く。そして、「お前は日本人だったな。俺はミヤコっていう日本人の友達がいるんだ!ほら、これがミヤコからもらった手紙だぞ。」
確かに日本人ぽい女子からの手紙で中には日本の写真とかが入っている。確かに、ボスは人当たり良さそうだし、僕は何も思わず「ふーん」と聞いていた。「で、オデはどのツアーにする?」
僕は「いや、僕は一人で大丈夫。」と答えると、ボスは「それは困る。ここまで説明したんだから、ツアーを組んでもらわないと。俺には家族もいるんだし、これが俺の仕事なんだ。」
僕がこれ以上話を進めることを躊躇していると、ボスは「バスツアーで、ニューデリー、ジャイプル、アーグラを三泊四日で回る。ドライバー代も、ホテルも食事も込みで、2万ルピーでいい。格安だ。4日後には望みどおりフリーで回ればいい。」。1ルピー2.5円だから1万5千円か。確かにそこまで悪い条件じゃないし、最初だからそれもありかと思った。僕の所持金は10万円弱。帰りのフライトまで一ヶ月ちょっと。インドで約一ヶ月8万円ならやっていけるだろう。このままだとホテルに帰してくれそうもないし、ツアーを組むことで同意し、その場ですぐに2万ルピーを払わされた。
ボスは「ありがとう、友人!」と言い、「今夜は家で夕食を一緒に食べないか?」と誘ってきた。僕は一人旅をする男らしく「もちろん!」と話に乗った。「すぐホテルに呼びに行くから、先に一旦部屋まで戻っててくれ」と言われ、僕は言われたとおりにホテルに戻った。そして、ベッドに腰掛け、フッと息をつくと、間もなくノックの音がした。ボスは嬉しそうな表情を浮かべて、「よし行くぞ!」と階段を降りて行き、自分の原付バイクにまたがると、「後ろに乗れ!」と首をかしげて僕に合図した。僕は、「初日からなんという冒険だ!」と興奮しながら、バイクの後ろの方に飛び乗った。もう辺りは真っ暗になっていた。
(前後のエピソードと第一話)
合わせて、僕のいまを綴る「偶然日記」もよかったら。「雄手舟瑞物語」と交互に掲載しています。
こんにちは