偶然SCRAP#51: Zarinaは紙を使って、宇宙に通じる窓を開ける

(追記:2020年1月1日)
ロシア・アバンギャルドっぽいSF感を感じて、気になった記事。

宇宙なんて単語が出てきたら、これもまた気になっちゃう。インド生まれの女性アーティストのザリーナ・ハシミ(1937-)の作品。インドからパキスタン、そしてニューヨークを「家」を移してきた彼女。家族から離れて。そんな記憶を手仕事で静かに現実世界に醸し出す。

インクを使わずに、ピンで穴をあけたり、木くずに薄くインクをつけて描いてみたり、竹製のブラインドに一枚一枚金箔を貼り付けていったり。前に挙げたマレン・ハッセンジャーとも通じる。スロー・アート。

スロー・アートは、瞑想的。記事の最後に「彼女の作品たちは、抽象芸術が表現しうる超越性と日常生活における神の内在性、その間に置かれている」とあるのだが、抽象アートをみるときは、脳神経学的にはトップダウン処理(内在的な集中状態?)が走るらしいので、いやはや納得。もはや彼ら・彼女らは高位の禅僧だ。

(初投稿:2019年12月1日)
イギリスのアートマガジン「Frieze」に掲載の展覧会レビューを引用紹介しています。

Reviews/
Zarinaは紙を使って、宇宙に通じる窓を開ける
BY MURTAZA VALI
20 NOV 2019

ピューリッツァー芸術財団でのZarinaの個展は、50年に及ぶ彼女の静かなる精神の研究成果である

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静寂と瞑想的な空気に包まれる安藤忠雄によるピューリッツァー芸術財団は、この回顧展にとって理想的な場所である。この回顧展は、洗練さと自制心を持ったZarinaの紙と版画による実験の探求と「家」での癒やしと「家」の移り変わりに関する彼女のパンセ[瞑想録]を探求するものだ。この展覧会は、彼女の50年間の作品から、小さいが深く思考された作品が選ばれ、展示されている。これらの作品は、彼女の制作にインスピレーションを与えた美術史における重要な作品たちとの対話の中に置かれている。作品は、テーマが異なる3つの部屋にまたがって展示されている。そして、Susan Philipszのメランコリックな音響作品が流れ、お互いが優雅に共鳴し合っている。

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Zarina, Veil, 2011, 22-karat gold leaf on bamboo blinds, 361 × 122 cm. Courtesy: © Zarina and Luhring Augustine, New York

Zarinaの第一のメディアは、ずっと版画である。ここにも、たくさんの版画が展示されている。これらは、逍遥[動き回る]のアーティストが「家(ホーム)」と呼ぶたくさんの都市のうちのいくつかを描いている。例えば、トリプティック作品の「Delhi」(2000)は、タイトルにある街の十字に交差する道路地図とその地域を空から見た景観と謎めいた川の線で構成されている。「Santa Cruz」(1996)では、5つの四角いフィールドが、それぞれ水平線で二等分されている。最後のパネルは、Urduの詩の一行が水平線の代わりになっている。エッチングの優美な精密さが、光の特質の僅かな変化を伝えている。それは海の眺めにあるような空気感と実存感、これらを抽象化して表現しているようである。

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Unknown artist, Pierced Window Screen (Jali), c.1580, red sandstone, 87 × 62 × 4 cm. Courtesy: Harvard Art Museums/Arthur M. Sackler Museum, The Director’s Discretionary Fund and the Fund for the Acquisition of Islamic and Indian Art; photograph: © President and Fellows of Harvard College


この展覧会では、初期の作品も展示している。一対の凸版印刷(「無題」(1969, 1970))では、拾ってきた木のくずを使っている。木の粒子とテクスチャが表れるように、インクがそっと塗られている。「無題」(1971)では、Zarinaは、垂直線がみっしり詰まった面を作るために小枝を使った。垂直線は、竹やぶ、あるいは雨の広がりを暗示するようだ。特に後者の方は、この作品の近くに展示した彼女自身が所有する版画、歌川広重の「Sudden Shower over Shin-Ohashi Bridge and Atake [大はしあたけの夕立]」(1857)に共鳴しているようである。1970年代後期からの繊細なピンのドローイングは、インクをまったく使っていない。見えないグリッドによって構成された無数の穴は、私たちの注意を紙自体のフィジカルな特色に向かせる。これら全ての作品は、Zarinaの手仕事の軌跡である。ある時は繊細に、ある時は過激に、手仕事の効果が現れる。筆圧、テクスチャ、表面のバリエーションは、それが僅かな違いだったとしても、版画に効果をもたらすことができる。

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Zarina, Home is a Foreign Place, 1999, portfolio of 36 woodcuts with Urdu text printed in black on Kozo paper and mounted on Somerset paper, each: 41 × 33 cm. Courtesy: © Zarina and Luhring Augustine, New York


この展覧会の2番めの部屋はZarinaの光に対する(特に、神の叡智のメタファーとしての)興味をテーマにしている。光り輝く「Veil [仮面]」(2011)が、この部屋の肝だ。12 foot-tall [高さ3.6メートル]の竹製の日除け(ブラインド)の作品で、細い肋(あばら)のような表面には、四角い金箔が丁寧に貼られている。また、「Dark Night of the Soul [霊魂を覆う闇]」(2010)という同じ題名が付けられ、そばに置かれた二つの作品では、それぞれの正方形の紙が、墨で黒く染色されている。一つは、針で繰り返し穴が開けられてる。もう一つは、黒曜石の粉末が散りばめられている。こうして黒色の空(くう)を宇宙の象徴へと変換させている。これらの作品は、少し驚くが、レンブラントの聖書に関する二対のエッチング作品(「キング一家の星」(1651頃)と「キリストの埋葬」(1654))と呼応している。暗く、不機嫌な場面は、単一の光源だけで照らされている。これらの劇的なキアロスクーロ[明暗配合]は、光と闇を対立する概念ではなく、相互に関係し合う状態の象徴として表している。

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Zarina, Dawn, from Home is a Foreign Place, 1999, woodcut with Urdu text printed in black on Kozo paper and mounted on Somerset paper, 41 × 33 cm. Courtesy: © Zarina and Luhring Augustine, New York

この美術館の低層階の部屋は、Zarinaの生涯に渡って情熱を注いだ「空間と構成」に焦点を当てている。例えば、厳然な雰囲気を持つ36の版木のシリーズである「Home Is a Foreign Place [家(ホーム)は外国にある]」(1999)。それぞれの版木は、彼女が小さい頃に過ごしたインドのアリーガルでの記憶から呼び起こされたウルドゥーの言葉から着想を得ている。彼女は1959年に家族でパキスタンに移住したとき、故郷のアリーガルを捨てたのだ。建築的な特徴を与える言葉と景色とその他の彼女の過去のかけらは、言葉を伴って、人間の内面に対して情動を引き起こす強力な引き金となり、これらを表現した優美な抽象芸術に歴史と記憶の重みを与えるのだ。また、砂岩で作られた複雑な透かし細工のjali(ジャーリ)、すなわち装飾的な仕切り窓が、「Home Is a Foreign Place」と1980年代の彼女のキャストペーパーの彫刻の間の見事な転換点の象徴として展示されている。キャストペーパーの彫刻は、その後、紙を三次元に変換するという彼女の生涯に渡る関心へと発展していく。自然由来の顔料―例えば、バーント・アンバーやテラ・ロッサやインディゴ―を使った実験を行った結果、彼女は、まるで錬金術のようにキャストペーパーをより様式美を持つ彫刻的な素材へと変換した。それぞれのキャストペーパーは、全く異なる重みを持っている。そして、「Corner [角]」(1980)は、一つの楔のような切り込みを特徴としていて、鉄や錫の重量を表現している。これらの神秘的な彫り細工の多くは、スルタン時代とムガル帝国時代の建築の中庭や階段井戸を想起させる。これらは、Smauel BourneとRaja Deen Dayalによる19世紀の写真にも見られる。これらの彫り細工は、Kazimir Malevichの一枚のドローイングの横に置かれている。この展覧会はZarinaの作品の全てを優美に扱い、彼女の作品たちは、抽象芸術が表現しうる超越性と日常生活における神の内在性、その間に置かれている。

「Zarina: Atlas of Her World」は、ピューリッツァー芸術財団(米セント・ルイス)で2020年2月2日まで開催中

Main image: Zarina, Delhi, 2000, portfolio of three woodcuts printed in black on handmade Nepalese paper, mounted on Arches Cover white paper, each: 65 × 50 cm. Courtesy: © Zarina and Luhring Augustine, New York

MURTAZA VALI
Murtaza Vali is a critic and curator based in New York and Sharjah.

訳:雄手舟瑞

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