【雄手舟瑞物語#12-インド編】初仕事(1999/7/31)
インド旅行5日目。朝、ラジャの自宅で朝食を済まし、二人を新たに雇い入れてくれたツーリスト・オフィスに初出勤した。
ラジャと僕は二人一組になり、観光客にホテルやツアーを”斡旋”するのが仕事である。ラジャは僕をボッタクったツーリスト・オフィスはクビになったものの、基本的にはやることは変わらないし、周りの同僚も既によく見知っているようで楽しそうに会話している。
ラジャはオフィスの中や外で同業者と思われる仲間に僕を紹介してくれたり、時たまリキシャーの運転手が連れて来るヨーロッパ人と思われる観光客の相手をしていた。明らかにヨーロッパ人は激昂しているのに一歩も引かずに最後まで吹っかけている。ちょっとすると、ヨーロッパ人は「クレイジー」とか何とか言って僕たちを罵倒し、オフィスを出て行ってしまう。オフィスのみんなは全然こたえてない。このクレイジーさに同調して笑みを浮かべるしかない、しがない日本人・・・。
同僚たちと一緒に昼ごはんを食べ終わると、ラジャは慣れた様子で「そろそろ日本からの飛行機が着く時間だ。空港に行くぞ。」と僕に声を掛け、二人でニューデリー空港に向かった。やっと僕はここでリキシャー運転手とツーリスト・オフィスはグルなのだと気づき、インド初日に空港で拾ったタクシーもグルだったのだと悟る。(なんと遅い悟りだろうか。)
空港の駐車場でタバコを吸いながら飛行機の到着を待つ。到着したのが分かると、僕たちはまず空港の到着ロビーに向かう。日本人観光客が続々と到着ゲートから出てくる。ラジャは僕に「まずインド旅行が初めての日本人を探せ」と指示を出す。僕は言われたとおりに次々に「こんにちは!インド旅行は初めてですか??」と聞いて回る。だいたいスルーされたが、僕と同じくらいの男子大学生4人組をつかまえることに成功した。さらに話すとまだホテルも決まっていないと言う。
「僕たちは今インドが初めての人たちの手助けをしているんです。セントラルまでご案内しますよ。」
彼らのうちの二人はちょっと渋い表情を浮かべていたものの、勢いに押されてラジャのバンに乗り込み、あっさりとツーリスト・オフィスに連れ込まれてしまった。そして、別の同僚が彼らにボッタクリ・ツアーの話を吹っかけ始める。今度は明らかに苦渋の表情を滲ませる彼らの姿に、僕は申し訳ない気持ちが募ってきた。さりげなく僕は「ここに連れてきた自分が言うのもあれなんですけど、ここは高いので、決して話を受けちゃダメですよ。断固拒否して、スキを見て逃げてください。」とアドバイスをした。
その後、僕はラジャに呼ばれて、別の同僚が連れてきた日本人女性二人組の観光客の通訳を行った。その人たちにも、僕はさっきと同じアドバイスをし、彼女たちはしばらくすると、彼らの提案を撥ねつけてオフィスから出ることに成功した。
ふと大学生四人組の方を見ると、彼らはさっきよりも深くうなだれた状態で立ち上がり、何とインド人の同僚にどこへやら連れて行かれてしまった。聞くと、彼らはツアーに参加することになり、ホテルに連れて行った、ということだった。僕は「あんだけ助言したんだから、彼らがツアーを受けてしまったのは僕のせいじゃない。」と彼らを責めつつも、どうしても罪悪感が拭えなかった。
ちなみにラジャたちは、この所業について、「インド旅行が2回目以降のバックパッカーは、インドの危険さや仕組みが分かってるから大丈夫だが、初インドのバックパッカーは分かってなくて危ないから、俺たちがツアーを組んであげてサポートしている。」と、いうことだった。
まさに「お前が言うな」である。
僕はこの日、何組かの日本人バックパッカーの通訳として仕事をこなした。どうやら被害者は大学生四人組だけで済んだようだ。こうして非常に複雑な気持ちを抱えて、一日を終えた。そして、僕は本当に彼らがこの旅を楽しめますようにと願った。願うことしかできなかった。
(前後のエピソードと第一話)
※この物語は僕の過去の記憶に基づくものの、都市伝説的な話を織り交ぜたフィクションです。
合わせて、僕のいまを綴る「偶然日記」もよかったら。「雄手舟瑞物語」と交互に掲載しています。
こんにちは