『偶然SCRAP#24』Eugѐne Atget(ウジェーヌ・アジェ)
先週末、恵比寿に行く用があったので、帰りに東京都写真美術館に立ち寄った。収蔵作品を紹介するTOPコレクションを見る。今年のテーマは「イメージを読む」らしい。今回の展覧会の名前は「写真の時間」展。
「写真の時間」展では、写真が持つ時間性と、それによって呼び起こされる物語的要素に焦点を当ててご紹介するものです。(中略)この展覧会では、写真と時間、そしてそこに横たわる物語との関係性を、「制作の時間」、「イメージの時間」、「鑑賞の時間」という3つのキーワードによって探ります。
ー引用元:東京都写真美術館HP
第1章の「制作の時間」では、”長時間露光やブレといったカメラの特性を生かした技法を用いた作品など、制作過程において時間と深い関係性のある作品を紹介します”とある。まさにピッタリ。
ウジェーヌ・アジェ、ロバート・キャパ、ウィリアム・クライン、東松照明、中平卓馬、佐藤時啓などの作品が展示されていた。
自分は固有名詞を覚えるのが苦手だし、収集するのも苦手。だからアート学生だったのに、全然アーティストの名前とか知らない。音楽のようにCDで気軽に買えて、聴けて、シェアできれば、こんな僕の記憶にも少しは残り易くなるのだろうが、そうもいかない。前は知らないことを引け目に感じていた(つまり、実はアートに興味がないんじゃないかと自分のアートに対する愛を疑っていた)けど、知らないものは知らないと開き直って、一つずつスクラップしていこう。今回も一番気になったものだけ抜き出す。
それはアジェ。
※まぎらわしいが、これは2017年の展覧会の紹介記事。
アジェ(1857-1927)は、フランスの職業写真家。41歳のときから30年間で約8千枚の写真を撮る。消えゆくパリの街並みや歴史的建造物、人々の姿を記録した。これらのパリの貴重な記録は、図書館や美術館などに収められたり、画家や建築家などに販売していた。晩年近く、近所に住んでいたマン・レイが、それらの写真の魅力に気づき機関紙『シュルレアリスム革命』に掲載し、前衛芸術家の中でアジェの作品が広まっていった。アジェは彼らに、率直で素朴な目で現実を捉え、現実を超えた世界を引き出した芸術家と評された。(参考:Art Gallery 87の記事)
アジェの作品は最初の方にあった。胸を掴まれた。
まさに「ブレてるところがブレてない」※ここでは姿勢の話ではなく、作品に写っているものの話。
アジェの写真に写された建物はブレていない、人間は少しブレている。動きがある、つまり生きているということが分かる。写っている人間は兵士ではない、普通の町の人だ。静かだけれども確かな生を感じた。
他の作品。そこにいたはずの人間が、長時間露光のせいか分からないが写っていない。ブレすぎると不在になる。一方で、そんな人間が作り出した建物は写っている。人間の生の痕跡としての建物。建物が生き物に見えてくる。
面白い。
アジェ自身も俳優を目指して挫折したり、41歳で画家を目指して挫折したり、いろいろブレていたらしい。なるほど。
※次回の「偶然SCRAP」は8/21予定。「偶然SCRAP:今の日常を綴る」と「雄手舟瑞物語:青い鳥を探し続けた男が見つけたもの」を毎日交互に掲載しています。明日は「雄手舟瑞物語」です。
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