【雄手舟瑞物語#7-インド編】旅行2日目、ラジャと僕、ジャイプルに向かう(1999/7/28③)
ジャイプルに向かうためツーリストオフィスをラジャの車で出発した僕らは、一旦ラジャの自宅へ向かった。ツーリストオフィスから10分としないところにラジャの自宅はあった。ボスの自宅と同じような石造りの集合住宅。町に近いからか、それとも明るいからか、この周辺では昨晩ボスの家に行った時に感じたピリピリする危険さはなかった。ラジャは僕も連れて家まで戻った。玄関ではラジャの奥さんが出迎えてくれた。
僕が「ナマステ」と挨拶すると、笑顔で答えてくれた。昨日のボスの奥さんもそうだが、優しく親切な人柄が伝わってくる。ラジャは「出かける支度をするから、ちょっと待っていろ」と僕に伝えると、スーツケースを取り出し、着替えやら歯ブラシやらを詰め始めた。「迎えに来る前に準備しとけよ」と思ったが、まぁいい。
5分もすると支度は終わり、「飯は食ったか?」と聞いてきた。僕はボスと食べたと伝えると、「じゃあ」と言って奥さんに何やら指示し、奥さんはサモサのような揚げ物を幾つか包んで持たせてくれた。そしてラジャは「3日ほど家を空ける」と奥さんに伝えて、二人を家を後にした。
午前9時。晴天。僕たちはジャイプルに向けて出発した。
車は土埃舞う幅広の道を進む。道にはTATAというエンブレムがつく車やらバイクやらで渋滞というか、ひしめき合っている。センターラインとか信号などはない。右に行ったり、左に行ったり、車が進路を変えるときは、窓から腕を外に出し、手合図を送る。あちこちで車が接触しあい、みんな怒鳴り声を上げながらも、止まることなく前に進む。エネルギーに満ちている。この次々と目に飛び込んでくるエネルギッシュな光景のおかげか、僕は先々を心配するような暇はなかった。開けた助手席の窓に肘を掛けるという旅慣れた雰囲気を醸し出しながら、僕は不安どころか外の様子に興奮した。
車、車、車。すり抜けるバイク。横切る人。怒鳴り合う声。道に横たわる牛。犬。活気あふれる市場。物売り。道行く人々。道に寝そべり、動かない人間。物乞い。乾いた土埃。レンガ。ガネーシャ。象。車内ではラジャがカセットテープを取り出し、ザ・インドな音楽を掛け始める。これがリアルというのか。圧倒的なリアルの前では未来は影を潜めるのかもしれない。僕の中での旅の始まり。の前に、そもそもどうして僕はインドに一人旅をしに来たのか、ここいら辺でその理由を話しておきたいと思う。
(前後のエピソードと第一話)
※この物語は僕の過去の記憶に基づくものの、都市伝説的な話を織り交ぜたフィクションです。
合わせて、僕のいまを綴る「偶然日記」もよかったら。「雄手舟瑞物語」と交互に掲載しています。
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