【雄手舟瑞物語#20-インド編】躓きからの再出発、逃亡計画III(1999/8/7①)
昨日、最後の客引きの仕事で出会ったトラとチカブン、カトミ。僕のせいでぼったくりツーリスト・オフィスに比較的軽めのぼったくりツアーを組まされることになった。
その夜、彼らのホテルの部屋で僕は話すことができた。彼らは僕を面白がってくれ、「一緒に逃げませんか?それと、皆さんの旅について行ってもいいですか?」という僕のお願いに乗ってくれた。
インドに着いてから12日目。これが3回目の逃亡計画。彼らと朝7時にデリー市内のマクドナルドで待ち合わせをし、新しい素敵な仲間との出会いと、そんな彼らとの旅が出来ることのワクワクを胸にホテルを後にし、床についた。
僕は6時半に目を覚ました。マクドナルドまでは歩いて10分。顔を洗い、歯を磨く。寝間着など持っていない。持ち物もほとんどない。
6時40分。もう出かける準備は出来た。ちょっと早めに出るかと、小さなバックパックを手に取った。
その瞬間、
ドンドンドン!ドンドンドン!!!
ドアを強く叩く音。僕はビクッとした。
「おい、舟瑞!起きてるか!!」
ラジャだ。
僕はドアを開け、「どうしたんだ?」と聞く。
「お、おはよう!昨日お前が客引きした奴らが逃げようとしたところを捕まえたぞー!」
と、ラジャは笑っている。
・・・またか。。。二度あることは三度ある。
「お前も一緒に来てくれないか?今、あいつらをオフィスに叩き込んで、同僚が見張ってる。昨日が最後の仕事だったのに悪いな。」
とラジャは僕を疑っている様子もなさそうに言った。
とにかく、僕は「分かった」とだけ言い、荷物を持って、ラジャと一緒にオフィスへ向かった。
オフィスに着くと、三人がそれぞれの荷物を床に置き、うなだれた感じで椅子に座っている様子が見えた。僕は申し訳なくてたまらなくなった。すぐにオフィスの中に入り、三人に声を掛けた。
「大丈夫ですか?何があったんですか?」
三人が顔を上げ、チカブンが答えてくれた。「大丈夫。朝部屋を出たらさ、インド人がいて見張ってたみたいで捕まっちゃった。」
僕は自分の計画の甘さに申し訳なくなり、「すいません。」と言った。チカブンは「どうしようかね。」と言う。僕はラジャに正直に話すことにした。
「ラジャ、僕は彼らと今日からの旅を一緒にしたかったんだ。だから彼らに朝早く出ようと言ったんだ。」
ラジャは特に怒りもせず、「そうか。でもそれは困るな。お前は今日から自由だが、彼らにはこれからツアーに行ってもらわないと。」と言った。
もうお金は払ってるんだからいいだろう、と言ったが聞き入れてもらえない。しばらく押し問答をするが、話が進まない。僕とトラ、チカブン、カトミは「どうしようか」と顔を見合わせた。
その時だ。
オフィスの外で僕たちのやりとりを覗いていた一人のインド人男性がオフィスの中に入ってきた。見かけない顔のその男性は僕たちに、
「どうしたんですか?」
と流暢な日本語で僕たちに話しかけてきた。僕ら日本人は驚いてまた顔を見合わせる。僕はとりあえず日本語で状況を説明した。すると、
「ああ、なるほど。よくあるんです。」と彼は答え、ツーリスト・オフィスの人たちと英語で話し始めた。ラジャは彼に「誰だお前は!関係ないだろ!」とぶつかるが、彼は怯まず「日本人たちを解放してやれ」と説得にあたってくれたのだった。
その後、会話はヒンズー語に変わり、何を話しているのか分からなくなったが、段々言い合いから談笑に変わっていった。そして、ツーリスト・オフィスのボスが「お前ら、もう行っていいぞ」と手で僕たちを払うように言ってきた。
その救世主は僕らに笑顔を向け、「もう大丈夫。」と言い、僕たちを一緒に外に連れ出してくれた。とにかく僕たちは彼に感謝を伝え、そして「ところでどうして助けてくれたのか?」と、聞いた。
彼は「僕は少し前まで十年間、奈良で料理人の修行をしていたんです。その時に日本人にはすごいお世話になったんで、こうして捕まってる日本人たちを助けているんです。」と笑いながら答えてくれた。
なんというラッキーだろうか。改めて僕たちは彼に感謝を述べた。そして僕はツーリスト・オフィスを去る前に、ナイキのビニール袋をラジャに「こんなんしかないけど、これまでありがとう」と渡し、その他の同僚たちと握手をして、彼らと別れた。
こうして約十日間の客引き生活が終わった。
逃亡計画の躓きはあったが、何とも偶然的な救世主の出現のおかげで、ついに僕たちは僕たちの僕たちによる旅が始めることができたのだった。
(つづく、次回は8/4日曜日)※2日に1回くらい更新してます。
(前後の話と第一話)
※この物語は僕の過去の記憶に基づくフィクションです。
合わせて、僕のいまを綴る「偶然日記」もよかったら。「雄手舟瑞物語」と交互に掲載しています。
こんにちは