夏の叫び

恋とは断末魔の叫びではないか
奇をてらった文言をひねり出そうとして
ふとそんな並びが浮かんでくる

時間を引き延ばしてみると
当てはまるものはたくさんある
死まであと一秒なのか一年なのか一光年なのか
明日死ぬなら今日の私の言葉は全て
断末魔のそれであり
必死のセミの叫びもそれであり
マンションの廊下に転がる彼の
突然の咆哮もやはりそれであり
言葉は全て
死を前にした命の
断末魔の叫びと言えようぞ

ナンセンスだ
と私は繰り返す
例えば裏切りから不信へ落ちる様子は
ナンセンスだ
一方裏切られても頑なに信じ続ける様子など
もっとナンセンスだ
裏切りに裏切りで報いる態度も
やはりナンセンスで
裏切りを許し続ける努力も
甚だナンセンスで
裏切りを放置して侮りを受けるのも
ナンセンスで

そもそも
信頼・期待・約束をして
裏切りに遭うという姿が
ナンセンスだと思えてきて
では一切の信頼も期待も約束もやめてはと
思えどそれも興ざめである

どんなにナンセンスであろうとも
セミの大群は叫びをやめることはなく
命の限り最大音量で旋律も歌詞も無い恋歌を歌い続ける
その姿にあはれありて
私は持てる言葉と記憶の全てを捨てて
ただ夏の終わるまで
命が枯れるまで叫んでいたいと
そう 思う


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