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#関節夫の手のひら小説   32解放区

#関節夫の手のひら小説32

解放区

圭介がその町を訪れたのは、都会の生活に疲れていた頃だった。駅前で目にした「解放区」と書かれた小さなギャラリーに足を踏み入れると、白いワンピースを着た女性がピアノを弾いていた。彼女が真里子だった。

「ここは心を解き放つ場所です。」
真里子の言葉に誘われるように、圭介は壁に飾られた短歌を目にした。
「風の音 沈む心を 掬い上げ 解放区とは 君の胸奥」
その一節が、彼の心に染み入るようだった。

それから圭介は、頻繁に「解放区」を訪れるようになり、ギャラリーの作品や真里子の短歌に触れながら、久しぶりにギターを手に取った。ある日、彼は「解放区」で過ごした時間をテーマにした曲を真里子に聴かせた。

歌い終えると、真里子は柔らかく微笑みながら拍手をした。
「圭介さんの心も、自由になったみたいですね。」

ギャラリーの隅に新たに飾られた短歌。
「枯れ果てた 心に注ぐ 光あり 解放区とは 君の笑顔よ」
それは、圭介が真里子に贈った感謝の言葉だった。

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