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#関節夫のひと息小説23 十六夜の月

#関節夫のひと息小説23

十六夜の月

圭介は、十六夜の月が空に浮かぶ夜が一番好きだった。満月よりも少し控えめに、ほんの少し欠けたその姿は、彼にとって理想的な女性像を映し出しているように感じられた。華やかさよりも、奥ゆかしさ。表に出過ぎない、その美しさ。

彼はある晩、散歩をしている途中で公園のベンチに座って夜空を眺めていた。ふと隣に誰かが座った気配がして、顔を向けるとそこにいたのは真里子だった。彼女もまた夜空を見上げていた。

「綺麗な月ですね」と圭介が話しかけると、真里子は小さくうなずいて答えた。「はい、十六夜の月は特に好きです。ちょっと控えめで、それでも凛とした美しさがあると思いませんか?」

圭介は驚いた。彼が感じていたこととまったく同じことを、真里子も思っていたのだ。少し照れながらも、圭介はその月に込めた想いを話し始めた。話すうちに、彼女もまたその静かで控えめな美しさに憧れていると語り、二人の距離が少しずつ縮まっていった。

その夜、彼らは長い時間をかけて話し、月が少しずつ傾いていくまで過ごした。帰り道、圭介はふと、真里子こそがまさに彼が思い描いていた「十六夜の月」のような女性なのかもしれないと気づいた。

それから、圭介の夜の散歩にはいつも真里子がそっと寄り添うようになり、彼は彼女との時間を宝物のように大切に思うようになった。

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