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#22 わかりやすく釉薬について語ってみたい…あっ、色つけるの忘れてた(4)

 釉薬について何度か書きました。

 ふと、気がつきました。釉に色を着けるのを忘れていました。
 染付の磁器に掛けられている透明な釉薬。釉薬の下に呉須で描かれた絵がきれいに見えます。でも多くの陶器に施されているのは何らかの「色」が着けられています。
 古くから、赤津七釉と呼ばれる灰釉、鉄釉、織部、黄瀬戸、志野、御深井、古瀬戸(赤津地区は瀬戸でも作家や窯元が多い地区)などはもちろん、他にも瀬戸は釉薬の種類が多いのが特徴です(瀬戸七釉など他にもいっぱいあります)。

 釉の色は様々な要素で決まります。窯の雰囲気、素地の色合い、ベースになる釉の性質に、そこに加えられる金属成分など。

 窯の雰囲気とは、窯元の職人さんたちが和やかに仕事しているとかギスギスしてるとかということではありません(たぶん、それは釉の色には関係しません)。
 窯の焼き方の話です。焼成時に窯の中に空気(酸素)を十分に与えて、釉薬を「酸化」させるのが酸化焼成。逆に十分な空気(酸素)を与えないようにし、釉薬を「還元」させるのが還元焼成となります。釉薬の中の金属成分に対しての酸化還元作用です(これを窯の雰囲気と言います)。
 たとえば電気窯は電熱線が熱源なので酸素は内部に豊富で基本的に酸化焼成になります(焼成中にガスを送り込み燃やすことで還元焼成も出来たりしますが)。また、よく窯を焼く画像で窯のあちこちから勢いよく炎が吹き出しているイメージがありますが、あれは還元焼成です。炎が酸素を求めて吹き出す感じでしょうか。ガスや薪の窯は空気の流れを調整するなどで酸化も還元も可能です。

 素地の色合い。これは普通は粘土に含まれる鉄分の違いですね。瀬戸の土は基本的に鉄分のない白いことが特徴なので、釉薬そのものの色合いが表現しやすい土です。釉薬が豊富なのは瀬戸の特徴です。

 釉薬のベースになる灰釉は先にも書きましたが、溶けやすさとか透明感など灰の(植物の)種類で特徴(くせ)が出ます。そこに金属成分が加わって色が着きます。

 釉薬に使われる金属はいろいろありますが、最もよく使われるものは鉄と銅になります。
 黄瀬戸、瀬戸黒などは鉄、織部や辰砂などは銅が発色した釉です。もちろん、加える量などでも色合いは変わります。

 あちこちから「そんなに単純なことはない」って声も聞こえそうですが、(ざっくり言えば)酸化で得られる色はその金属の錆びた色、還元で得られる色は金属本来の色、と(私は)思っています。
 鉄を含む釉を酸化で焼けば黒、茶(赤)、黄色系統……黒錆、赤錆、錆びた遊具で遊んで汚した服が黄色っぽい、みたいな。銅の釉を酸化で焼けば銅の錆びた……ほら名古屋城とか銅で葺いた屋根の緑、緑青(ろくしょう)を濃くすれば織部。
 鉄を還元焼成すれば、鉄本来の色から青磁の青っぽい冷たい色。銅を還元焼成すれば銅本来の赤銅色(出来たて10円玉)で釉としては鮮やかな赤の辰砂。そんな感じ。

 もちろん、そこには様々な要素があり、そんな単純じゃないのも重々理解しています。また、織部といっても作り手それぞれの理想な織部があり、それぞれがそれを目指して創意工夫していますので、無限の織部が存在します。それは他の釉でも同じです。

織部。代表的な銅の釉薬。酸化で焼きます。
黄瀬戸は鉄の釉薬。酸化焼成。
瀬戸黒など黒い釉も基本的に鉄。
青磁や御深井の薄いグリーンや水色は鉄の還元から。
ちょっとかわった鉄赤釉。これは鉄の酸化。
同じ赤でも銅の還元から得られるのは辰砂や釉裏紅。もっと鮮やかな赤。

 先程も書きましたが、様々な要素の組み合わせで無限に色合いが出てくるのが釉薬。想像を超える変化をするのも釉薬。先に挙げた以外でも、他の金属成分、窯の温度の上げ方、下げ方、還元の強弱、釉の掛け方(厚み)、窯の火の回り方、燃料の違いなどなど変化を与える要素はきりがありません。

 本当にざっくりですが、釉に色をつける話でした。トップの画像は私の学生時代のテストピース。ベースとなる釉を細かく変化させながら、鉄の割合を変化させています。色の変化がちょっとした条件の違いで大きく出ます。

 自分の理想の器を作るために作家は複雑な釉の迷路をさまよい続けていると言って過言ではありません。
 そういう作家さんたちは「いい釉薬ですね」「いい色ですねえ」というほめ言葉が形や技術をほめられるよりうれしいかもしれないですね。


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