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#33 窯が酔う

 毎日「暑いねぇ」とか言わない方がいいのかなぁ、とは思うけど、人に会うとあいさつのように「暑いねぇ」と言葉を交わす今日この頃。さほど酒に強くない私でもビールが恋しい季節です。もう8月だよぉ。

 さて、「窯が酔う」という言葉があります。
窯が酔う、酔っぱらっちゃう…窯も酒を飲むのか?!いったい何のことか?

 一言で窯を焼くといっても、焼き方には大きく分けて酸化焼成(織部や黄瀬戸などはこの焼成ですね)と還元焼成(染付とかの真っ白な磁器や青磁などですね)があります。
 窯を焼く時はその釉薬にあわせて、窯に入る酸素の量を調節するなどして窯の内部を酸化・還元の雰囲気を作るわけです。ところが窯の内部の空気の流れやいろいろな条件で酸化で焼いているはずなのに一部還元がかかってしまったり、逆に還元で焼いているのにちょっと酸化で焼けてしまった部分ができたりすることがあります。こんな窯の中の雰囲気が不安定になった状態を「窯が酔う」と昔から言っています( いつもと同じ窯でも季節、気温、窯の詰め方などいろいろと影響を与える要素は結構あります)。

 銅の釉である織部は通常酸化で焼いておなじみの濃いグリーンになりますが、還元で焼けば同じ銅の釉薬である赤い辰紗のような色合いが現れます。銅は酸化還元の振れ幅が大きいと思います。

 窯が酔った状態になると、一つの品物の上で釉薬がいろいろな発色をすることとなります。たとえば織部の花瓶の一部だけが還元がかかり赤く発色したりするわけです。

わが家の古い手水鉢。
たぶん複雑な要素がいろいろあってのこの色。

 これは全く計算外の結果なわけで、本来ならば失敗ということですが、意外とそれがいい景色に見えると、いわゆる「窯変」と言ったりして喜んだりします。 今のようなコントロールしやすくなった窯でも起きたりするので、昔の古く大きな薪の窯だったらかなりの頻度だったかも。しかし、あくまでこれは偶然の結果であり「これいいね。再度同じ焼き方でお願い」はなかなか難しいわけです。
 でもこうした失敗をしっかり検証すると、次の新しい釉が生まれるきっかけになることもあるようで、まさに失敗は成功の元。


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