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#26 「織部」って織部さんの好みです

 さて、織部と言えば瀬戸焼や美濃焼を代表する人気の釉薬です(唐突ですが異論はないとは思います)。
 緑色の釉。銅を含む釉を酸化焼成することで得られる色合いです。
 前回書いた春岱の織部もとてもステキでした。

 織部……もともとは釉というよりも織部好みの器全体を指していたようです。織部好み……この織部というのは戦国大名、古田織部のこと。武人であり、茶人であり、利休の高弟。その織部好みというスタイルは器にとどまらず、茶室や作庭や様々なことに及びます。が、ひとまずここでは器について。
 織部好みの器は非対称だったり歪んでいたり不思議な鉄絵の文様だったりと言ったイメージでしょうか。先にも書いた通り、志野でも黄瀬戸でも織部好みのものは最初は全部「織部」と呼んでいたらしい。じゃああの緑の釉はというと「青織部」として他とは区別していたようです。「青」って?と思うかもですが、昔の日本は緑も青と言ってました。今の季節の木々の緑を青葉って言うように。その最も織部(好み)らしい緑の釉を織部と今では言っています。

 織部も器全体に緑の織部釉を施したもの(総織部と呼んだりします)、器に織部釉を部分的に掛け分け、鉄絵の文様を描き透明釉(灰釉、灰志野)を施したものなど。どうでしょう、一般に織部の器と聞いてまず思い浮かぶのは後者多いのではないでしょうか?
 不思議な鉄絵の文様。昔からいろんな伝統的パターンがあります。よく見かける柿の実が吊るしてあるように見えるのを「吊し柿」、窓につるが絡まったようなのを「窓蔓(まどづる)」などと私たちは呼んでいたりしています。草紋だったり鳥だったりとわかりやすい文様もありますが、幾何学的な文様になると何かさっぱりわからないものも……。以前、絵付職人さんに「これは何の文様なの?」と尋ねても「まぁ昔からあるやつだで、何やろなぁ」でしたね。吊し柿や窓蔓だってもともとは全然違う何かだったとしても不思議じゃないわけで。

吊し柿。なんか昔の裸電球っぽいね。
窓蔓と呼んでいる。蔓はまあ蔓だ。
こういうのはもともと何のイメージかわからない。

 織部自身がどこまでその時代で「織部好み」の器の製作に関わっていたかは不明です。自らの手で…ということはないとしても、どこまで陶工に指示を出していたのか、それとも当時の優秀な陶工の作る中から自分の価値観に合うものを集めていったのか……。多分詳細な指示を出し、それに応える陶工集団がいたという感じじゃないかと想像します。

 古田織部、最期は謀反の疑いで家康に切腹を命じられています。結果、一族もすべて処分されています。その時に多くの資料も失われ、今では謎の多い生涯となっています。
 古田織部を描いた漫画として「へうげもの」(山田芳裕)があります。織部の詳細な資料のない分、作家の自由な発想(フィクションも含めて)で描かれいているので面白く当時の雰囲気が味わえると思います。

 織部の器を眺めていると、結局400年前の織部さんの手のひらで今も踊らされている気分にすらなります。未だに「織部好み」のスタイルは作り続けられていますし、少しも飽きることもない……実に不思議です。

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