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僕は新大陸で狩友を失った


僕にはモンスターハンター:クロスの頃から馴染み深い狩友が3人いた。


 狩友、そう狩友だ。モンスターハンターシリーズの公式が、モンスターハンターを一緒にプレイして遊ぶ友達のことをそう呼んだのが一般的に広まった言葉だ。

 別に僕たち4人で狩猟の速さ(タイムアタック)に挑むような高度な狩猟をしていたわけじゃない。それどころか、2017年3月下旬に発売された続編(モンスターハンター:ダブルクロス)のやりこみコンテンツである『二つ名モンスター』の狩猟を4ヶ月経っても完遂していないような、ごく一般的な実力しかない狩人たちに過ぎなかった。

 けれど、そんな実力だとしても、毎日こつこつとみんなで一喜一憂しながら強敵を狩って遊ぶのは楽しい時間だった。

 VC(ボイスチャット)で会話もしているのに、だれかの体力が無くなって力尽きた時にわざわざ『これもラギアクルスって奴のせいなんだ』『ラギアワルクナイ』などと定型文チャットを使ったり、ヘビィボウガンをよく使うが必殺技のスーパーノヴァという技をよく外してしまう狩友をみんなで定型文を使って煽ったりした。

 チャットの内容はノリと勢いに過ぎなかったが、モンスターを狩猟しながらもお互いの行動を観察してはいちいち笑い合ったり褒め合ったり、そんな狩猟生活を送っていた。

 そして気がつけばそんな狩友たちと一緒に困難なクエストも難なくクリアできるようになっていたし、互いに背中を任せ合えるような関係にもなっていた。



 そして時は過ぎ、2017年12月。

 あの新大陸がやってきた。


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 気がつけば僕はモンスターハンター:ワールドにのめり込んでいて、PS4トロフィーを全て獲得していた。続編のモンスターハンターワールド:アイスボーンも発売日の0時から遊び始め、そのトロフィーもコンプリートしていた。

 その過程で新たな狩友に出会い、狩友同士で集まるサークルに所属した。

 そのおかげで期間限定のゲーム内要素もすぐに全回収できた。さらに、2周することが前提とされている難易度のクエストの尽くを1周でクリアできたし、ぱっと見クリアさせる気がないような難易度のクエストも実装から僅か数日で安定周回できるようになった。

 そして気がつけばマスターランク(やり込みの指標の1つ)は上限に達していたし、装飾品(ゲームを有利に進めることができる、ランダム要素の高いアイテム)を全て収集し終えもした。



そんな僕の隣に、3人の馴染みの狩友は居なかった。


彼らはいつしか、僕の友人になっていた。


僕は新大陸で狩友を失った。




観光客誘致をイベントやアップデートに依存した新大陸

 僕にとっての新大陸は、端的に言えば『観光客誘致をイベントに頼る地方自治体』のような運営のされ方だった。

 実際に、この点については  2019年1月に発行された『DIVE TO MONSTER HUNTER: WORLD モンスターハンター:ワールド 公式設定資料集』の最後にある、『モンスターハンター:ワールド』を振り返ってという辻本プロデューサー、藤岡エグゼクティブ・アートディレクター、徳田ディレクターの3人へのインタビューの中でも似たようなことが触れられている。

 ── DLC(ダウンロードコンテンツ)の配信スケジュールは、どのように決められていったのでしょうか?
徳田 もともと最初のほうでモンスターの序列バランスを作っているときに、イビルジョー、マム・タロト、ナナ・テスカトリまでは決めていました。
(中略)
辻本 その頃の計画に当初にはなかった要素もいっぱいあります。歴戦王モンスターとか。
藤岡 歴戦王モンスターに関しては、いくつかの燃料投下として必要だろうという話になったんですよね。春夏秋冬と1周年の季節イベントを盛り込むことは決めていましたが、その間もユーザーの方に定期的に盛り上がるネタを用意したいなと思って。今までの経験から、発売後のユーザーさんの動向をある程度は予測していたわけですが……それでもやはり、足が早いと感じました。
(中略)
徳田 そういった形でユーザーさんの動向を見ながら、アップデートや追加のクエストは考えていきました。

(『DIVE TO MONSTER HUNTER: WORLD モンスターハンター:ワールド 公式設定資料集』558ページ 2019年1月31日刊行 より一部引用 )

 このことから、運営側としてもユーザーに定期的に盛り上がるネタを提供するべく、アステラ祭やセリエナ祭、さらには期間限定の各種イベントクエストを提供していたことが読み取れる。


 実際にイベントが開催されていた新大陸の様子はどうだっただろうか。確かにイベント中は観光客とも言うべき狩人が集まり、彼らは新たに実装された期間限定のイベントクエストや新規要素、もしくはアステラ・セリエナ祭を祝して復活したイベントクエストに挑んでいた。


 それに対して、イベントが開催されていない時期はどうだったか。割とあっさりと、観光客の数は減っていた。
 その大きな要因は、イベント期間外には遊べるクエストが極端に少なくなってしまい、遊びの幅が制限されてしまうことだった。また、イベント期間外にも期間限定のクエストが配信されることはあれど、その機会を逃すと次に遊べるのが2〜4週間先になってしまうことが往々にしてあったのだ。


 純粋に狩猟を楽しめている狩人達は、彼ら同士で集まれば普段通り遊ぶことができた。
 しかし、そうでない狩人は同じくらい、いやそれ以上に存在していた。そしてその殆どは狭められてしまう遊び方に辟易し、同時期に流行っていた別のゲームへと足を運んでしまっていた。


 もちろん、ゲーム内の祭りが開かれたり、アップデートという大きな変化があれば再び人は集まる。そして、旬が過ぎれば再び人は離れていく。その中で新大陸に定住し続けていたのは果たして全体の何割だったのだろうか。その割合を少しでも引き上げようとするかのように、新大陸は何度も祭りやアップデートを重ねていった。

 そのアップデートにより、新大陸には高難易度なコンテンツや、時間のかかる内容を何度も周回させることで良い報酬を獲得させるコンテンツのような、手間や時間をかけさせる要素が増えていった。それにより、少しでも長く新大陸に定住する狩人の割合を無理にでも増やそうとしたのだろう。


そして、それらが僕にとっての変化の引き金だった。


 期間限定を主とする新大陸運営を追うことを諦めてしまった狩人がいたが、それは馴染みの狩友だった。


 重なるアップデートにより高難易度で効率解を求められるイベントの内容やその空気に耐えきれなくなった狩人がいたが、それは馴染みの狩友だった。


 数多くのアップデートが過ぎ去った後に新大陸へ足を踏み入れて僕に追いつこうとしてくれた狩人はあっという間に音沙汰が無くなったが、それは馴染みの狩友だった。



狩友Aの場合:期間限定の不条理

 狩友Aは、狩人はあくまでも副業であり、毎晩のように深夜遅くまで残業を続けるような仕事を生業としていた。夜勤ではなく、純粋に朝から晩まで身を削るような勤務を続けていた。

 彼にとっての最大の不幸は、そうした環境に置かれるようになったのがちょうど新大陸に足を踏み入れ始めた頃だったことだ。すると、何が起こるだろうか。

 朝から深夜遅くまで勤務しても、その翌朝にはまた勤務が始まる。そうなれば、到底狩人として新大陸に身を置く時間はない。激務の影響から、せっかくの休日も休息することに手一杯であり、当然ながら新大陸へ行く頻度は日に日に減っていった。


 彼にとどめを刺したのは、ある時のアステラ祭だったのかもしれない。
 祭りの時期が彼の仕事の都合と恐ろしい程に噛み合わず、その期間中ほとんど新大陸へ挑むことができなかった。先述の通り、アステラ祭にしか配信されないような期間限定クエストを逃してしまえば、次に遊ぶことができるのは当分先になってしまう。

 そして彼は、まるで何かに裏切られたことを悟ったように、新大陸での活動を次第に閉ざしていった。その後定期的に来ていたお祭りも数々の新要素も、遂ぞ彼を定住させるに至らなかった。


狩友Bの場合:そこに最適解以外の解はない

 ハッキリ言ってしまうと、彼女は馴染みの4人の中では狩人としての実力に最も劣っていた人物かもしれない。というのも、彼女がモンスターハンタークロス/ダブルクロスを遊んでいた最大の理由は、仲がいい人と遊ぶゲームが一番楽しいから、というものだった。

 彼女にとってのモンスターハンターシリーズはその手段の一つに過ぎなかったはずだ。しかし過去の彼女にとってはいつしか最適なものになっていたことは、VCや定型文チャットにノリノリで便乗しながら彼女らしい狩猟生活を送っていたことからも分かるだろう。

 彼女らしい狩猟生活は、その装備やスキル構成に現れていた。彼女が実力派ではないことはご存知の通りだが、それを補うようにまさしく安心安全を体言するかのような装備を主軸に据えていた。簡潔に言えば、『相手に与えるダメージの量』よりも『自分が受ける被害の量を抑える』ことを優先した装備だ。
 実際に、当時の僕達の中では『体力が0になる回数が多すぎなきゃ何をしても良い』という不文律が生まれており、彼女が望む遊び方も僕達は当たり前のように受け入れていた。


 しかし、そんな彼女を、成長する新大陸の環境は残酷なまでに突き放していった

 度重なるアップデートによって、モンスターハンターワールドシリーズには高難易度な内容や効率解が求められるようなコンテンツが次第に増加していった。
 そしていつしか、一般的な難易度のコンテンツよりもそういったコンテンツが時間潰しの定番として扱われ始めていた


 そういった新大陸の状況を見た彼女が何を思ったか、そんなことは最早言うまでもないだろう。
 しかし、そこに追い打ちをかけるように、周囲の一般的なプレイヤーも様々な手段で提供される攻略情報によって高難易度環境に適応し始めた。その上、その周囲に効率的な周回方法や装備構成を真似するよう要求し始めたのだ。

 普段から実力面で申し訳無さを感じつつも周りと一緒に楽しむことを目的としていた彼女にとって、この新大陸とその狩人達はあまりにも無慈悲だった。

 そして周囲の環境に追いつくことへの限界を感じたからなのか、それとも僕達以外のプレイヤーから最適解を求められすぎたからなのか、あるいは両方か。彼女はある時点からそれ以上新大陸へ向かうことを断念してしまった。


狩人Rの場合:新大陸は後続の狩人に親切が過ぎた

 彼もしくは彼女は、馴染みの中でも先導役なように見えて、実の所はとても寂しがり屋だったのかもしれない。

 狩猟中にネタ全開の定型文を使っていたのは彼だったし、僕達がそれにわざわざ便乗するためだけに専用の定型文を作ってしまうぐらいには扇動力があるような人物だった。

 遠距離武器が難しそうだからと食わず嫌いしていた僕を気にも留めずにボウガンを担いでいたのも、スーパーノヴァという必殺技をよく外していたのも、その事を弄られるのも、彼もしくは彼女だった。
 しかし(滅多になかったが)適正距離で命中させた時の子気味良い破裂音と、そこから広がる爆炎の威力に浪漫を感じ、僕はいつしか自分でもボウガンを担ぎ始めるようになっていた。

 そんな狩友Rは、普段の狩猟に留まらず、僕達狩友同士でのオフ会を提案してくれたこともあった。実際に実行もした。その積極さは、今思えば周囲を離したくないことの裏返しだったのかもしれない。


 しかし、色々な事情が重なり、彼もしくは彼女は僕と一緒に新大陸に来ることはなかった。この辺りについては色々と『回りくどい』書き方をしている時点で察して欲しい。

 そんなRは、少し前にPS4とモンスターハンターワールド:アイスボーンを買い遊び始めてくれたのだ。それだけなのに、僕は自分の事のように嬉しかった


 しかし、その嬉しさは冬の凍える風に吹かれて消え失せたかのように、あっという間に途絶えてしまった。
 別に全く連絡が取れなくなったとかそういう話ではない。ただ単純に、僕に追いつくまでの過程で灯火がふっと消えてしまったのだろう。
 それが事実だとしたら、僕には痛い程に共感できてしまった。なぜなら、僕は『前例』をすでに経験してしまっていたのだ。


 それは簡単な話だ。僕がストーリー進行を手伝った結果、このゲームの醍醐味を理解するよりも先にストーリーをクリアしてしまい、すぐに新大陸から離れてしまった初心者狩人がいたのだ。


 初心者狩人が1人で最後まで進めるにはモンスターハンターワールドの物語はあまりにも広大になりすぎていて、最前線に追いつくにも手間暇がかかってしまうものへと成長しきっていた。日常生活と両立を試みようものなら、人によっては1〜2週間はかかってしまう。そういう規模だ。

 それを見越した新大陸の運営は、モンスターハンターワールド:アイスボーンから始めたプレイヤーがすぐに最前線に追いつけるように、初心者狩人が先輩狩人にクエスト進行を手伝ってもらいやすくするシステムを導入していた。手伝う側にも若干のメリットがあり、確かにそのシステムは機能していた。

 しかしその機能は、あまりにも快適すぎた。極端な話、初心者狩人は狩猟にほとんど貢献できずともストーリーを進めることができてしまったのだ。それにより、見知らぬ先輩狩人に前線まで送り出されたはいいが実力が追いつかず、かと言って先輩狩人との関係は一時的なものに過ぎず、協力を求められる仲間もいない。その結果、強敵を目前にして夢を諦める初心者狩人が増えてしまっていた。


 おそらくRは、すでに別のグループに所属してしまっていた僕に配慮して、どうにか1人でストーリーを進めようとしていたのだろう。そしてその結果、夢は夢であることを知ってしまったまま、深い事情に包まれた日常へと戻っていったのだろうか。



その後の僕は

 最初にも記したように、この新大陸のおかげで新しい居場所に誘ってもらうことができた。また、モンスターハンタークロス/ダブルクロスの頃よりももっと多くの人に自分を知ってもらえたし、より多くの人々と狩友になることができた。

 しかし、それと同時に、楽しむ方法を教えてもらえないまま最前線まで駆り出されたまま武器を置く初心者狩人たちや、馴染みの狩友が『友人』へ変わっていくという現実も存在していた。

 自分は楽しめているのにこの輪の中に入れなかった人々が数多く存在することを思うと、やるせない気持ちになった。


 なのに、そういった人々が居ても、自分からはどうすることもできなかった。それぞれに手を伸ばそうとしたけど、いつしか手を伸ばしている自分の立場があまりにも大きくなりすぎていることに気がついてしまった。

 結局、自分にとって都合の良い部分だけを眼中に収めたまま、かの日の『友人』達にすら、語りかけることも、気にかけることすらも、できなくなってしまっていたのだ。



きっと、誰かに責任があるわけじゃない。

世界に向けてより多くの狩人を求めた開発者も、

仕事が忙しすぎて期間限定を追うことを諦めてしまった友人も、

最適解の空気に馴染めず狩場を手放してしまった友人も、

あまりの新大陸の広大さに武器を置いてしまった友人も、

誰一人悪い訳じゃない。

ただ、お互いに噛み合わなかっただけなのだろう。



だけど、

それでも、

馴染みの顔と肩を並べて、

気兼ねなく笑い合ってだらだら遊び続けられる、

そんなありもしない日々を、

僕は探し続けていた。

筆を執るこの僕の胸の痛みこそが、指し示していた。



まだ、あの時の僕達を取り戻せるだろうか?

けれど、何があろうとも、

僕たちへ降り頻る雪を溶かし、

行き先を照らし出してくれる "太陽" は、

もう昇り始めている。


モンスターハンターワールド:アイスボーン_20201109213125


Special Thanks
記事サムネイル作者:動くマトさん
友人Aさん
友人Bさん
友人Rさん
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せと。
暇ですが暇ではないので不定期投稿になってしまいますが、皆さんに納得して頂けるような記事を作成できるように日々精進していきます。

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