握り拳で〆サバを。
街に二軒あるうちの、賑わっていないほうの鮨屋の次男坊。
それが俺の経歴だ――。
今は、大学を2留した末にその鮨屋を継いでいる。
まるでうまく握れない。
鮨屋は誰でもできると、元IT社長のインフルエンサーは言い放ったが、
俺のシャリはとんでもなくまずい。柔らかすぎるし、形が終わっている。
そんなある日、オヤジが死んだ。鮨屋の三代目だった。
しめやかに葬儀は行われ、ほどなくして鮨屋は再開した。
客がゼロになった。
俺は小さく握り拳を作った。
なんでもっとオヤジに寿司を教わらなかったのか。優しく出来なかったのか。最後にありがとうと言えなかったのか。
拳の中で、〆サバが握られていた――。