【恋は恋】魚クション
さびれた漁港。
美穂、加奈が海沿いを歩いている。
―――――
美穂「向かってるの、どこ?」
加奈「食堂」
美穂「あそこ? え? 漁師さんが利用するとこやろ。なんかボロいし」
加奈「テレビでやっとった、一般の人も来てくださいって」
美穂「そういうの、潰れる手前にやる宣伝だよ。魚くさそうだし」
加奈「魚食べるんやからいいやろ」
美穂「鼻でかぐので、肌でしみこむのは違う」
菜津美の軽自動車が止まり、降りてくる。
菜津美「ごめん、おそなったわ。どこ行くが?」
美穂「食堂だって」
菜津美「漁師さんが使うとこやろ! テレビで観て行きたかったんぜ」
加奈「ね?」
美穂「……いやいや、いや」
3人は同級生。高校1年から15年間ずっと親友でいる。
くされ縁は続き、お互い独身のまま31歳を迎えようとしていた。
いや、こんな田舎町。3人とも独身だからこそ、親友を続けられるられるのだ。家族ができたら他人、子供ができたら知り合い、子供が同じ部活ならライバルになる。
で、なぜ漁港の食堂なのか。
今日は美穂が婚約破棄に遭ったことを慰める会のはずだ。
美穂「どういうつもり? 魚くさ」
菜津美「また新しい恋をしようよって会」
加奈「海鮮丼、おごるねか」
美穂「こんなとこでそういうの、やんないでほしいんだけど」
菜津美「でも、サンマルクでも高倉町珈琲も、コメダも混んどるし、席近いし、知っとる人パートしとるやん」
美穂「……まぁ聞かれたい話ではないけど」
加奈「かといってANAホテルの上とか、旦那が銀行員の美代子とかしょっちゅうおるらしいし、絶対ウチらのことバカにしてくるよ」
美穂「まぁ、あのホテルで食事取って悦に浸ってる人と漁師だったら、漁師かも」
加奈・菜津美「ね?」
3人の意向がそろった――。
薄い音で演歌の流れる、半分プレハブの「漁師食堂」で3人は海鮮丼を囲みながら、話し始めた。
美穂「……もう、あの男許せん。めっちゃ浮気しとった」
漁師のおじさんが入ってきた。
「おい、とんでもないダイオウイカが取れたぞ! 14メートルやって!!! みんな、来いま!」
14メートルのダイオウイカのお出ましだ。
もはや婚約破棄のことなどは、一旦忘れることになった――。
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