解像度の低いアイラブユー
それはそれはひどい近眼で毎朝、メガネを探しながら起きる。
思えば小3の頃からメガネをかけていて、あだ名も「めがねちゃん」だった。当時は遠視もきつかったが、大人になるにつれ近眼だけが残った。
今年で28歳になるアタシ。
彼氏はいるけれど、友人のみやびに誘われていったパーティーで出会った、メーカー勤務の彼とLINEを交換し、3度ほどご飯に行って「付き合おう」と言われて断る理由もないから今に至る。
高校時代はバドミントン部の補欠。たまに試合に出たこともあるベンチ要員。部活をさぼったこともあるけど、ほぼ皆勤賞。
大学は指定校推薦で最寄りの教育学部に入って、バイトを頑張りながら教育実習も行った。だけど、教師にはならず事務職をしている。
アタシからすると中途半端な割に恵まれた人生だなぁと思うけど、みやびに言わせればレールから逃げない「頑張り屋」だと言ってくれる。
プライドや自我がないわけでもないし、なんも考えていないわけでもない。友達も多くないけれど、いじめられたり、人間関係で悩んだこともない。
そんな自分が嫌いでも好きでもない。というかよく分からない。
人間なんてあっという間に28年ぐらい歳を取ることができる生き物だと思う。
「結婚しよう」
彼氏に言われた。付き合って10カ月。まぁ遅くもないし早くもない。
でも、眼鏡越しでも彼がボヤボヤして見えた――。
このプロポーズを受けてはいけない。確信した。
そう思ったきっかけは、眼科で新しいメガネを新調しに行ったときのことだった。
アラサーで同じ歳ぐらいのイケメン医師・池上先生と目が合ったときだ。
一本道に見える気球のピントが合うみたいに、人生で初めてアタシはアタシの解像度が低かったことに気づいた。
池上先生を好きな理由。今のアタシはちゃんと論理立てて話せそうだ。
みやびは結婚を勧めてくるけれど、「……違う気がする」と初めて異を唱えた。
解像度。解像度。
朝陽が差し込む午前。裸眼のアタシに彼がキスをしてきた。
「絶対違う」
アタシはそう思って、池上先生を見かけたことのあるバーに向かった。
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