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サプライズよりデンジャラスなのがいい

気付いたら、知らない人と中央分離帯を歩いている。

年々増す気温のせいなのか、この街の謎めいた熱気のせいなのか、頭が朦朧としていた。

初めて行ったクラブは驚きの連続だった。
人が押し寄せる踊り場で男が女の尻をまさぐっている。
どう見ても初対面のふたりが舌を絡めてキスをしている。
フロア一面にいるのは、刈り上げで日焼けした薄い顔の男と小柄で露出度の高い茶髪の女ばかり。
私のように黒髪ロングの文庫本好きはいなそうだ――。

朝。「痴漢!」と騒がれて逃げ出すサラリーマン。
終電前。「あんなところで……」と白い目で見られる多国籍カップル。
彼らがかわいそうに思えてくる。

こんなところに『公然わいせつ地帯』が『合法痴漢エリア』があるのに、彼らとこいつらの違いは何なのだろう。

レッドブルウォッカを煽るスーツの男に声を掛けられる。
音がうるさくて何を言っているか聞こえないが、汗臭いし酒くさいしで近寄りたくない。苦痛な時間、早く去れ。

「は? しかとかい。――めんどくさ」
立ち去る声だけは聞こえた。

無理やり私を誘った、同じ団地育ちの聖恵が帰ってこない。
団地育ちが今じゃTバックが透けるほど薄いワンピースを着て、六本木を闊歩している姿には驚いた。
「じゃあ、あそこ行こっ」
「え……うん」
せっかく東京に来たからと思ってついていく。こういう好奇心だけは思っている自分が好きではない。

気付いたら、一人。
ドリンクコーナーとトイレの間にある柱にひたすら立っていた。
しょうがないからチケットで一杯頼む。

さらに、気付いたら、二人。
隣に若い男が立っている。
しかも、六本木を貫く大通りの中央分離帯を手を握って歩いていた。

「佐山さんは――」
と私が聞いているから、彼は佐山さんという方なのだろう。

「もうちょい行ったら広尾だよ」
「はい」

熱気を帯びた空気を体に受けて、我に返った私。
この先どうしたらよいか迷っていたが、――危険な道を選ぶことにした。

そういう自分が嫌いじゃない。

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