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ヨットクルージングで学んだこと
このコロナ禍で「アクセル」と「ブレーキ」と言う言葉をよく耳にする。
とあるお方にこのコロナ禍で色々あるけれど気分転換にとお誘いいただいたヨットクルージング。実は高校時代のアメリカ留学中に一度だけ経験したのだが、その時は湖だったので初めての海だった。
船はエンジンで出船し、港を少し出たところでジブセールを張りしばらくそのまま風に任せるとエンジン音の無い、青い空と海の香り、そして風音だけの気持ち良い時間が流れる。やがてメインマストにもセールを張り、風を捕まえる。ぐんと推進力は増しスピードは上がる。
セールを張るときにはテンションを保っているロープの固定を解除するとするすると一気にセールは広がってゆく。どのロープを固定し、どのロープを解除するかでセールの張り方は変わってくる。
ヨットの面白いところはどこから風が吹いたとてセールにどのように風を受けるかで思いのままの方向に進んでいくことが出来る。湖と違い、海はちっぽけな自分にさえも無限の可能性を感じさせてくれた。
陸上ではお天気も良く、春の日差しの心地よい日でした。しかし、海上では徐々に日差しも強くなり暑く感じ出したころ、突然キャプテンがジブとメインの張り方を変えた。
「暑くなくなったでしょ?」とキャプテン。ロープの引き方ひとつで、無風に近く、心地よい環境が生まれる。ロープの「固定と解除」「コントロールとリリース」で見事にそれを作り出す気遣い。それでもなおヨットは快適に安全に推し進んで行く。
この事はどちらも必要で、どちらかに偏っても危険を伴うことになる。このバランス、つまりは陰と陽が必要な訳だ。
帰港の際はスピード重視で船は少し傾きながら進む。僕らはライフラインに身体をあずけ、デッキから足を海に投げ出し海面ぎりぎりを楽しむ。
この日のキャプテンの目的は「僕らを楽しませること」が目的で、その手段が「ヨットクルージング」だった訳だが、そのベースには「安全」ということもしっかりと念頭にある訳だ。むしろこの先の「交流の発展」をも考えているのかも知れない。
リーダーは「損」と「徳」だけでなく、そのベースになるもの、まだ見ぬその先の世界を含めて俯瞰的にみて判断すべきなのだ。帰港後、楽しい話は尽きないが楽しませてくれたキャプテンが疲労困憊であったことは言うまでもない。
言葉だけの「アクセル」と「ブレーキ」とは大きな違いだ。「推進力」と言う言葉は、風を捉えて前に推し進めることで、強引に進めることではない。とも感じた。