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当事者の声に耳を傾けることから始める。|「365日のさとおやこ」イベントレポート(後編)

10月〜11月は里親月間。
月間中には、里親制度をより多くの方に知っていただくため、今年で三度目となる里親制度啓発イベント「365日のさとおやこ」を開催しました。会場は下北沢の商業施設BONUS TRACKです。

気軽に里親子について知っていただくため、対談や展示会、里親さんを囲む座談会(里親カフェ)、映画上映、ワークショップやお買い物ができるマルシェなど様々な催しを行いました。

当記事では現役の里親さんとの座談会「里親カフェ」、社会的養護や被虐待経験のある若者たちの声をまとめた映画「REALVOICE」のトークショーの様子をご紹介します。


◆里親カフェ|「一緒に過ごす年月が愛情を育む」養子と里子を育てるご夫婦の体験談


「里親カフェ」では、佐藤司さん、美雪さん(仮名)ご夫婦に登壇いただきました。佐藤さんは第一子を特別養子縁組で迎えられた後に、里親として登録されました。現在は里子を含めて、二人のお子さんを養育されています。


司さん 私たちの場合は里親登録前から養子を育てていたことから、里子は上の子よりも年下の同性の子どもを受け入れたいと事前に伝えていました。

里子を受け入れるにあたって、一年ほど時間をかけ、上の子どもを含めた受け入れ体制を整えることを心がけました。上の子どもがいる場合は、その子どもの精神的なサポートをどうするかを含めて夫婦間での意識の共有と事前準備が大切です。

インターネットを通じて情報収集していたのですが、良い体験談ばかりが出てきてしまって。先輩の里親さんとの交流の中で、養育で行き詰まったことについてもお話を伺えたのはよかったです。ほかの里親さんとの交流の機会や専門機関による研修もあり、サポート体制が手厚いと感じています。


佐藤さんご夫婦は共働きでもあります。仕事と養育の両立について、以下のような話がありました。

美雪さん 働かれている方も多いと思うのですが、職場の協力は不可欠です。子どもは想像よりも体調を崩しやすいんです。 

司さん 私たちも早々に有給休暇を使い切ってしまって。平日に病院に行くこともあり、夫婦のどちらか片方が臨機応変な対応ができるようにしておかないと大変かと思います。

職場がどのくらい協力してくれそうかを事前に知っておくこと、もし協力が難しいのであれば、環境を変える覚悟も必要だと思います。私たちの場合は、妻が一時期、非正規職員に契約形態を変えていた時期もあります。

仕事をどのくらい調整できるかで、委託されるお子さんの幅が違ってきます。仕事の調整が難しいのであれば、より健康状態を予測しやすい大きな年齢のお子さんのほうがよいかもしれませんし、完全に専業主婦になれる環境を作れるのであれば、小さな子どもを迎え入れて養育することもできるかもしれません。
自分たちに何ができて何ができないのかを夫婦間で話し合い、共通認識を持っておくことが重要です。


里子とのコミュニケーションや夫婦間の連携については、以下のようなお話がありました。 

美雪さん 仕事柄、子どもと接する機会が多いのですが、奈々ちゃん(仮名、里子のこと)を迎え入れた当初は、奈々ちゃんとコミュニケーションをとる中で想像と違う反応が返ってきて戸惑いを感じることが多かったです。

司さん 子どもたちが寝てから、戸惑いを感じた反応とその背景について夫婦で話し合うようにしていました。
里親になるための研修の中では、子どもの心の発達に合わせた望ましい養育者の関わりについても勉強します。奈々ちゃんの様子と学びと照らし合わせて、この時期にこの関わりができていなかったのかもしれないと仮説を立てて、必要な経験を補えるように心がけています。
 
子どもの変化が目に見えてわかることは、やりがいでもあり、楽しみでもありますね。ただ、もっとできるという期待が強くなりすぎると、子どもにとってプレッシャーになってしまうので、一歩引いて見ることが重要です。
 
子どものペースを大切にしつつも、「〇歳だからこのくらいできるのではないか」というイメージはなかなか抜けづらいです。夫婦で養育の役割分担をしているのであれば、より深く子どもと関わるほうへのケアも大切となります。

美雪さん 夫婦での協力体制の作り方も工夫が必要です。私が気が立っていると、夫が「一度、外に出て気分転換しておいで」とか「この一ヶ月でこんなに奈々ちゃんが成長しているよ」と伝えてくれるんです。その一言で冷静になれることがよくあります。
 
司さん 何をするにも時間がかかり、夫婦二人で過ごしていた頃とは時間の使い方が一変します。趣味の時間を十分にとることは難しいですが、子どもにストレスが向かっていかないように、仕事や日々の生活のストレスを発散できる時間を定期的にとるようにしています。子どもたちの前では喧嘩しないようにも心がけていますね。


参加者の方からは「里子であることの告知」や「血のつながり」などについて質問がありました。

Q. お子さんに里子であることを伝えていますか?

司さん 奈々ちゃんには、実親の記憶もあります。上の子を特別養子縁組で迎えたということもあり、上の子を含めて「ママが二人いるよ」と伝えていて、それが当たり前の環境で育てています。実親に負の感情を抱かないで済むように、実親のことを悪く言わないようにしています。
 
美雪さん 子どもたちに実親のことを話す時には「ママが産んでくれたから、今ここにいるんだよ」という話をしていますね。

 Q. 里親への登録を検討していることを友人に伝えたところ、「血のつながりがあるから、子育てに耐えられるんだよ」と言われて不安に思っています。血のつながりがなくても、愛情は持てるものでしょうか? 

司さん たしかに知人に里子の話を出すと「血のつながり」の話をされることは多いです。「血のつながり」という曖昧なものに頼らなくてよいくらい理性的であればいいと思っています。

美雪さん 血がつながっていたとしても、いっぱいいっぱいになる時はあると思いますし、あまり「血のつながり」は関係がないと捉えています。

司さん 日々の養育は、大変だと思うことと子どもが可愛いと思えることの繰り返しです。それは血のつながりに限らず、すべての養育に共通するものだと思っています。

美雪さん 養子と里子を育ててみて、一緒に過ごす年月で愛情が積み重なっていくように感じています。


◆映画「REALVOICE」トークショー|SOSのサインに気づき、子どもと向き合うことの大切さ。

 

当日は映画「REALVOICE」の上映も行いました。「REALVOICE」は子ども時代に虐待された経験のある若者たちの声を集めたドキュメンタリー映画です。

上映後には、監督で児童養護施設出身でもある山本昌子さん(以下山本監督)、映画の出演者の一人であり、ネグレクトや心理的虐待などの経験がある山本あやさん(仮名、以下あやさん)のトークショーを行いました。その様子を一部ご紹介します。

 

山本監督 全国の約70名の若者たちが出演しています。里親家庭や児童養護施設などの社会的養護のもとで育った方だけでなく、虐待があったことを認識されないまま大人になった人たちも含まれます。また、虐待があったことを伏せて日常生活を送っている人もいます。
 
私は今回の映画の撮影の傍ら、全国の社会的養護出身者や虐待を受けた経験がある若者たちとオンラインでつながり、食品や洋服の支援もしていたことから、出演者との距離感が難しいと感じていました。苦しんでいる姿を撮影すべきなのか、支援者であれば撮影以外にもできることがあるのではないかという葛藤がありました。
 
撮影する時に心がけていたことは、話の内容を操作しようとしないことです。私自身、大人になって生きづらさを感じていた時期がありましたが、そんな自分を救ってくれたのが「ライフストーリーワーク(生い立ちの整理)」でした。自然に話してもらうことで、生い立ちの整理になればと考えました。


あやさん 私は普段、顔を出しての発信はしていません。でも、自分の育った環境を伝えることで社会が変わるきっかけになればと考え、映画に出演することにしました。
 
私はネグレクトの経験があり、子ども時代には洗濯ができていなかったり、お風呂に入れていなかったりすることもありました。地域や学校の人が気づく機会もあったと思うのですが、誰にも触れられませんでした。当時、もっと気にかけてくれる大人がいたらと思います。子どもの立場からすると、自分では「虐待を受けている」と言い出しづらい状況にあるんです。
 
山本監督 私は以前「虐待を受けた児童・生徒の SOS 発信に関するアンケート調査」を行ったことがあります(調査概要はこちら)。子どもたちは様々な形でSOSを出しています。例えば、子どもたちが「問題行動」と呼ばれるような振る舞いをすることもあります。なぜ問題行動に至ったのか、その背景を知ろうとする姿勢が一番大切です。子ども時代に大人がじっくり話を聞いてくれたことに救われたと話す若者も多いです。
 
私は児童養護施設で育っているのですが、子ども時代は問題児だったと思っています。振り返ってみると、周りの大人たちが「児童養護施設の子だから」という目で見るのではなく、一人の人として向き合ってくれていたように思います。大人たちの丁寧な関わりがあったからこそ、安心して過ごせたと感じています。まずは、子どものSOSのサインに気づき、話を聞くことを大切にしてほしいです。


山本監督 映画を撮影する中で「親を救えば自分も虐待から抜け出せたと思う」と話す若者もいました。虐待を受けた経験がある子ども・若者たちの中には、厳しい環境の中で親も一緒に頑張ってきたと感じている人もいます。
 
虐待を見つけた時に保護者を頭から否定するのではなく、「何か困っていることはありますか?」と声をかけてほしいです。保護者自身も何らかの形でSOSを出していると思います。「あなたのことを受け入れたいと思っている」というメッセージが伝わることで、家庭の状況が変わっていきます。結果として、子どもの命が救われることにつながっていくと思います。
 
あやさん 虐待の問題は身近にあることを知ってほしいです。周りの方に「REALVOICE」やトークショーの話をしていただくことで、立ち止まって考える機会になると嬉しいです。

 

当イベントでは、里親として子どもを養育された方、子どもの立場で虐待を経験された方など、様々な立場の方に登壇していただくことにより、子どもの福祉について多面的に知る機会となりました。

「365日のさとおやこ」のイベントレポート前編では、三輪清子さんと橋本宗樹さんの対談や写真展示「ともにくらす、さとおやこ」の様子に加え、スタンプラリーやワークショップ、イベント出展団体についてご紹介していますので、ぜひご覧ください。

 

世田谷区では、里親家庭を含めたどんな家庭であっても、地域の誰もが子どもたちの成長を支え、子育てに協力しあえる街「里親子フレンドリーシティ」を目指しています。

子どもたちや子育て中の保護者、里親さんを含めた様々な家庭のSOSに気づき、当事者の声に耳を傾けることが「里親子フレンドリーシティ」につながっていくと感じています。

 

里親制度では、里親さんだけでなく、学校や支援機関、地域の方を含めたチームで子どもたちを養育することを大切にしています。里親制度の普及啓発をしていく中で、社会全体で子育てをしていくことの一助になれたらと思います。「フォスターホームサポートセンターともがき」では、今後も様々な形でイベントを開催していきますので、ぜひご参加ください(イベント情報はこちらから)。

里親になるためにはいくつかの要件がありますが、特別な資格は必要ありません。詳細は以下よりご覧いただけます。
https://seta-oya.com/Fostering

また、本noteでは、過去のイベントレポートも掲載しています。こちらも併せてぜひご覧ください。
https://note.com/setaoya

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