これからの時代はつくり手もただ物をつくるだけではなくて、工夫している点などを伝えられないとだめだと思うんです。自分のやっている仕事をきちんと伝えられる人は仕事が多い気がします。RENEWに参加している工房は意識が高いから段々アピールができるようになってきて、それも回数を重ねるどうまくなっていきます。出展者同士で感化しあうこともあります。
鯖江の町中でファクトリーショップ(工房併設の直営店)が増えてきていることで、産地としての相乗効果があることも感じています。たとえばうちには重箱やとそ器はありませんから、接客していて売れないときにはうちにないものが必要だからだと思って、べつのあの店にはあるかもしれませんとお伝えすることがあります。紹介したお客さんがその店に足を運んで20万円ぐらいのものを買っていったことがありまして、紹介した先の漆器店さんとは関係がいいので、うちから紹介がなければその20万円は売れなかったから1割戻す、といって2万円を置いていってくれたこともありました。
卸は卸の業者さんが頑張らないと売れませんが、頑張ったら頑張っただけ数字が見えるのが直営店です。卸だと流通に流す商品は40%が平均です。直営店ではそのまま販売利益につながるため、利益率を計算すると約3~4倍の違いが生じてきます。仮に4倍として計算すると、卸への流通で100個を売るのと、直営店で20~30個を売るのとでは利益率が変わらないことになります。
直営店で販売する工夫としては、たとえばInstagramでは商品と使用シーンの撮影や紹介のテキスト、その先の販売ページなどすべて自社内でやっています。毎月一回は撮影日を設けて、その準備のための打ち合わせ、テキスト、考案、商品に載せるための食材の用意など、大変ですが頑張っています。SNSでファクトリーショップが認知されることで、お客さんが直接店舗に買いに来てくれたり、直営のECサイトで買うという手段を見出してくれたりすることが大きいです。お客さんとのタッチポイントが増えることが大事なんだと感じています。長い目でみたときに、工房見学をしに来たお客さんはたとえそのとき買わなくても、漆器についての知識を得ているので「漆ってこういうものだよ」と、どこかで他の人にも伝えてくれるとも思っています。