谷口康彦(RENEW実行委員長 / 谷口眼鏡代表取締役) - 産地の未来が「持続可能な地域産業」となる世界を思い描いて
日替わりヒーローがどんどん出てくるほうがいい
RENEWは始まりから、谷口・新山・森(東大卒・現在フィンランド留学中)という役割も得意・不得意もことなる3人が集い、それぞれに実現したいことがあって、重なっているところもあれば重なっていないところもお互い想像しあえる、そんな良い関係を築きながらやってきました。
僕の役割は、参加企業との調整や地域内でのコミュニケーションです。最初にRENEWを立ち上げるときは河和田地区の主に漆器産業の人たちに声をかけました。木製の高級漆器を作っている漆器屋とプラスチック製の漆器を作っている漆器屋がいて、両者とも自分たちがこの地区の生活を支えているという自負を持っていたために、そこには溝があったんです。
僕は眼鏡屋で利害関係なくどちらとも関係があったので、それぞれのキーマンを選んで新山くんも交えて酒を飲みました。数回飲めばまとまるだろうと思っていたのですが、力説しても分かってもらえず、それでも懲りずにRENEWをやりたい理由を熱く話し続けて、「そんなに言うなら」とようやく開催にこぎつけました。
地域の中でどんな事業や動きをするにも、大体2対6対に分かれます。良いと言う人が2割、何をしても反対する人たちが2割、真ん中の6割は無関心で何かすることが面倒だと思う人たちです。この無関心層の半分が理解者になれば景色が変わります。
たとえば会議で何か言いたそうな目線をしているけど手を挙げられない人がいる。そういうときにはその人に話を振って考えを聞きます。その人が一歩踏み出して一言でも発言をすることで、その場に参加した気持ちになれて、自分ごととしての意識が芽生えるんです。
僕はこれを日替わりヒーローと呼んでいます。誰かひとりだけがヒーローになるのではなく、ヒーローがどんどん出てくるほうがいい。そうすることで自分ごとになっていく人が増えていきます。
異日常を見にいく感覚と「暮らし観光」
RENEWは、毎年開催を継続しながらエリアを広げてきました。漆器や和紙の共同組合、鯖江市、越前市、越前町、商工会議所や商工会など、それぞれの業界団体や行政に事前に説明に行くことで、理解を得てきました。産業を背負ってきた人たちにちゃんと説明していくことはとても大切です。若い人たちがどんな思いで何をしようとしているのか、僕たちが伝えていくことで、若い人たちの動きやすさ、活動の幅がまったく変わってきます。
中川政七商店と組んだ2017年には、集客規模がそれまでの約20倍になりました。翌年には強力なパートナーがいないなか、精一杯自分たちで悩みながらつくりました。その精一杯がちゃんと滲み出て、お客さんがただのお客さんではなくファンのようになっていきました。RENEWらしさというものはここで初めてできたのかもしれません。
地域産業は暮らしとワンセットで、別々に切り分けるようなことはできません。文化観光と「暮らし観光」はたぶん近いところにあって、異日常を見にいくという感覚が広がっていくといいと思います。文化はどこにでもあるものだから、べつに特別でなくていいのです。たまたま少しだけ頑張っている地域で、光っている文化が見えたら、それが外から来る人の自信にもなります。その人が自分の地域に戻ってまた種が広がっていく。そういうことが文化観光の力だと思います。
ここ数年は台風とコロナで思うように開催できておらず、これからが大切な時期です。社会はどう変わるのか、元に戻るのか、自分たちはどういう形でならやっていけるのだろうかと考えます。出展者のみなさんに向けても「RENEWがなくなってもいいと思える世界って、何なんでしょうね」という話をしました。それぞれの企業やつくり手たちが本当の意味で独り立ちして、つくり手たちの発言がきちんと業界の中で通るようになる。つくり手たちが自力で売って結果が出てくる。そうしてこの産地が持続可能な地域産業となる、そんな世界を思い描きます。RENEWはそのためのサポートだけをしているという姿が一番望ましいんです。
地域の産業を元気にしたい、産地全体を元気にしたいという人がこの地域にたくさんいて、みんなでそれを支え合っている。下手でもいいから自分たちでまず絵を描いて、自分たちでやっていく。やったことに感動して、やれて良かったと涙を流せば、またなにかやりたいと思えるようになります。RENEWが名前や形を変えても、たとえなくなっても、そうして続いていったら、それが本当のRENEWの成功だと思っています。