私が一番大切にしているのは、お客さまと話し合いながら直接販売することです。ネット販売も考えましたが、そのお客さんのための器を作りたく、オンラインのやりとりだけで作っていくのは苦手です。お客さんとはメールなどでのやりとりではなく、電話で直接声を聞き、できれば会って直接話をします。お客さんの顔を思い浮かべながら、その人が使っている姿を想像して作品を作るのです。
お客さんとの会話は、相手の欲しい器のことを具体的に聞くというよりも、お客さんの人となりを知りたく、プライベートなことも含めどうでもいいような話をしながら、その人がどのような感じの人なのかを知り、私の中で想像を膨らませて作品の形にしていきます。最初はサンプルを作って、それをお客さんに見てもらいますが、最初から満足のいくものはできません。「こうしましょうか」「こんなのもできます」などと提案し、お客さんと会話していく中で完成形に近づけていくのです。
そのようにお客さんと徹底的に向き合ってする作業は時間も手間もかかるのですが、私にとってとても大切なことです。父が存命だったときは、父と私で作業できる腕は4本ありましたが、今は2本しかありません。
また、起きる時間や寝る時間は崩すことはしません。それだけは父から、絶対に崩すなと言われてきました。疲れがたまると集中力が欠け、ミスも多くなります。それを防ぐには、食べて、寝て、休むのが一番なのです。これはとても大切なことで、無茶をすると絶対にそれが作品に出てしまいます。なのでお客さんには申し訳ないですが、時間をくださいとお願いして、一つずつ仕事をこなしていきます。同時に三つも四つも仕事を進めることができないというのが私の中の結論なんです。