3万円のお笑いライブに行った話
鬼ヶ島というトリオのコント芸人が好きだ。
駅の改札が2つしかない最寄り駅で学生生活を送りながら、いつか鬼ヶ島の単独ライブに行きたいと願っていた。
ちなみに最寄り駅に行くためのバスは、1時間に1本しかない。
3万円のチケットを取るまでの経緯
鬼ヶ島が10年ぶりに単独ライブを開催すると、8月27日に判明した。
9月9日にはお笑いナタリーにも記事が出た。
9月26日にチケットの詳細が出た。
どうして日付を覚えているかというと、すべて過去の自分がツイートしているからだ。
9月26日に、会場がナルゲキであることや、人力舎FCの先行がないことがないことが判明した。
席は3種類あった。
①学級委員長席:3万円(グッズ厳選3種類+舞台で記念撮影+賞状+アイアム和田によるモーニングコール)(最前列中央)
②風紀委員席:1万円(グッズ厳選3種類+舞台で記念撮影+賞状)(最前列)
③飼育委員席:4,000円
正直言って、観られたらどれでも良かった。
10年待ったというよりは、途中で諦めかけていた。
もう単独ライブはしないものだと思い込んでいた。
チケット発売時間にローチケに張り付いていたら、皆モーニングコールに怯えたのか、学級委員長席が取れてしまった。モーニングコールに怯えるのは、「人力舎のファン」って感じがする(偏見)。
私なんかが座って良い席ではないと分かりつつ、「10年ぶりに単独ライブを開催してくださるのだから、お布施をしたい!」、「とにかく祝いたい!」、「席の名前が世界観にピッタリで最高!」という気持ちが大爆発し、余っていた3万円の席を購入した。
そうして私は千穐楽の学級委員長になったのである。
ライブ当日
私はぷらっとこだまを愛する生き物なので、ぷらっとこだまの一番早い便で東京へと向かった。
左手に富士山が見えた。
電車に揺られながらも、実感は湧いていなかった。
最後に鬼ヶ島を生で観たのは、大学生の頃。
就活の目標ををテレビ局から一般企業へ切り替えた。
テレビ局用の就活対策をしていたためか、案外簡単に内定をもらえた。
ここから私は、勉強に手を抜き始める。
単位も教員免許取得過程以外は取り終わり、単発の派遣バイトを入れられるようになった。
そんなタイミングで、野方区民ホールに人力舎の芸人がたくさん出るライブがあり、それに夜行バスで行った。
SNSで「どうやら鬼ヶ島は本当に単独ライブをしているらしい」と情報を掴んでいたが、それでも私にはまだ実感がなかった。
私はあまり東京へ頻繁には行けない。東京へ出かける時は「うおお! 行くぞ!」と気合を入れ、すべてを手配しないとならない生活をしているため、生の鬼ヶ島から、随分と遠ざかっていた。
「ドッキリなんじゃないか」とさえ思った。
「3万円のチケットを買う私を笑うためのドッキリなのではないか」とまで疑い、それでも、「ドッキリでも、鬼ヶ島のために3万円払えたのなら幸せだ」と思っていた。酔狂な人間かもしれない。
『47歳の転校生』のポスターを眺めながらナルゲキで開場を待っていても、まだ実感はなかった。
チケットをもいでもらい、グッズを渡してもらった。
鬼ヶ島の代表作の一つであるコントの写真が使われた、カッコイイTシャツと記念のタオルと、限定グッズの缶バッチのセットだった。
このあたりで「もしかしたら本当に生で鬼ヶ島の単独ライブを観られるのかもしれない」と思い始める。
学級委員長として、限定の缶バッチを胸元に着けた。鬼ヶ島中学の校章を模した缶バッチだ。学級委員長が着けなくて、誰が着ける。
セットに入っていない物販を急いで買った。
とにかくアクリルスタンドが欲しかった。
千穐楽まで残っていますようにと祈ったものだ。
アクリルスタンドはランダム6種、1つ800円。
悪魔の所業か……? 良いゼ……! 全コンプするまで引いてやる……!
そんな覚悟は虚しく、全コンプセットが存在した。
鬼ヶ島は良心的だった。
良心的にも程があった。
全コンプセットは3,500円で、メンバー3人のサイン色紙まで付いてきた。
おかしい。800×6=4,800のはずだ。私は九九を間違って覚えているのだろうか。
「全種コンプしたいような変な奴からは、ボッタクリをしろ!」と謎に怒った。サイン色紙が付いている全コンプセットなんて、ランダム商法に疲れ切った人間からしたら福利厚生でしかない。5万円でも買っていた。
鬼の形をしたステッカーも可愛かったので、もちろん買った。
結局、物販として出されている物はすべて手に入れることができた。
グッズを買い終え、席に着く。開演アナウンスが流れる。
「本当に単独ライブがありそうだぞ」と、ここでようやく実感が湧いてきた。
暗転中に学ランを着た鬼ヶ島の3人が見えて、急に涙が出そうになった。
お笑いライブにおいて、明転と同時に泣いている客がいたら最悪なので、私は頑張って涙をひっこめた。
そこからはもう、泣く暇なんてなかった。ずっと笑っていた。
面白くて、おかしくて、変で、怖くて、暴力的で、チャーミングで……どんな形容詞を使っても言い表せない、私の憧れてきた「鬼ヶ島の単独ライブ」がそこにあった。血糊が出てきて、私はとても嬉しかった。
野田さんは、ビックリするほど噛んでいた。カンペがあるネタで、めちゃくちゃに噛んでいた。和田さんも隠れて噛んでいた。
配信があるとは思えないくらい攻めた内容のエンディングトークがあり、幕間のVTRで物販のタオルが絶望的に余っていると明かされた。
風紀委員の皆さんと写真撮影タイムを過ごしたが、そこで初めて、「鬼ヶ島は学級委員長席がどこだか把握していない」と判明した。
なんだか、それがとても良かった。転換中に「アイツが3万の奴だぜ?」等とヒソヒソ言われていないことが分かり、ホッとした。
表彰状が授与され、私は晴れて鬼ヶ島のクラスメイトという肩書きを手に入れた。
和田さんに「京都から来ました」と伝えた。
おこがましくも、「京都から来る人がいるほど、鬼ヶ島は愛されているのだ」と伝えたくなったのだ。
「変わっていますね」と返された。私が変わっているのではなく、ネタが特別に優れているという意味で、鬼ヶ島が変わっているのだが。
風紀委員の人たちも、そして私も、帰りにタオルを複数枚購入していた。
私たちはすでに、チケットを持っている段階で、タオルは特典で付いてくる。しかし買った。
「48歳の鬼ヶ島にも単独ライブをしてほしい」と、皆が願ったからだろう。
結局、物販はすべて完売したらしい。
翌日
歌舞伎町近くにホテルを抑えていたので、夜中にパトカーの音で何度か目覚めてしまい、寝つきが悪かった。「眠らない街」ではなく「眠れない街」だと感じた。
寝つきが悪かったせいで、「昨晩のことは、私の長年の執念による幻覚なのでは?」と疑った。
しかし目が覚めたら、カバンの中に「鬼ヶ島中学校」と印刷されたタオルがたくさんあった。
どうやら現実だったようだ。
鬼ヶ島の単独ライブを観られたことで情緒がグシャグシャになった状態。
それなのに、真逆の世界観に近いピューロランドへ行ってしまった。ピューロランドは新宿からは電車で一本、行くしかないのだ。
大好きなキキくんとララちゃんが中心のクリスマスパレードで、最初から最後まで号泣してしまった。キキくんとララちゃんは「おもいやり」の大切さを教えてくれた。
昨日、あんなに暴力や理不尽で笑っていたのに、「おもいやりのプレゼント交換」で泣いていた。多重人格者だったらどうしよう。
ピューロランドを満喫し、新横浜から新幹線で帰宅。右手にあるはずの富士山は、暗くて見えなかった。帰りはのぞみにした。
新幹線の中で、鬼ヶ島に迷惑な長文アンケートを送りつけた。
配信で観てほしい
そんな私が学級委員長を務めた公演が!
なんと!
配信で観られます!
案外、私の笑い声は入っていないので、私の笑い声が嫌いな人も安心して楽しめます!
24日までらしいけれど、売れたらもっと期間が延びるような匂わせがあった。学級委員長なのだから、鬼ヶ島中学校のアピールは責務だ。
学級委員長として、「鬼ヶ島の単独ライブをたくさんの人に届いてほしい」と、このnoteを書いている。
そう、これは日記の形をした販促noteなのだ! ガハハ! 騙されたな!
田舎を出たくて大学受験を頑張っていた私へ
10年待ちます。
その間に、いろいろなことがあります。
アナタは大阪の大学に進学したものの、「勉強が楽しすぎる」という意味不明な理由で、朝8時くらいから夜22時くらいまで大学にいます。たまにサークルにも顔を出しますが、ほとんど勉強をしています。
ちなみに、その勉強の内容は「メディア学」という学問です。
テレビ局に入社したくてどうしようもないアナタは、感動の涙を流しながら講義を受けます。
もちろん、学部でめちゃくちゃに浮きます。
テレビ局は最終面接で3社落ちます。
ヨーロッパ企画を通じて知り合った人と、京都で暮らすことになります。
挫折の多い人生です。アナタの「気にしすぎて自意識過剰で生きづらい性格」は治りません。
我慢してください。
ただ、我慢するだけではありません。
ヨーロッパ企画の上田さんからサインだってもらえるし、明石さんのワンピースを着て木屋町を歩けます。お気に入りのスナックとも出会えます。
大阪のお笑いに馴染みのなかったはずが、大阪でたくさんのお笑いライブに行くことになります。そこで友だちもできます。
新しく、好きなバンドにも出会えます。本も映画も演劇もお笑いも、楽しいことがたくさんあります。
辛いことや悲しいことはたくさんありますが、楽しいことも同じくらいあるので大丈夫です。
なので、頑張って生きましょう。
生きたら、アナタは鬼ヶ島の学級委員長になっています。
鬼ヶ島は2024年にも、学ランを着てコントをしてくれます。
人生のご褒美みたいな一夜を過ごせますよ。
それなのに、まだまだ、この先も楽しいことがたくさんあるみたいです。
あと、なぜか和田さんからモーニングコールをしてもらうことになります。これは、書いている今の私にも、イマイチ意味が分かっていません。
最後に、鬼ヶ島へ
単独ライブをしてくれて、ありがとうございます!
まだまだ学ランをたくさん来てください!
大好きだよー! ホントだよー!!