わかるって何?
こんにちは、丹野です。前回は2回にわたって、コミュニケーションで大事な3要素について触れてきました。
この中で、コミュニケーション基本モデルを取り上げましたが、これは”コミュニケーションを外から見た構造”を表現したものです。コミュニケーション構造を理解する上で大事なモデルであることは間違いないのですが、多くの方が悩んでいるのは”なぜ伝わらないのか?””なぜ会話が噛み合わないのか?”というとこころではないでしょうか。
巷には、自分の意図を相手にどう伝えるか?という内容の書籍が溢れています。それだけ悩んでいる人が多い証左と思います。そもそも、はじめから相手に理解してもらえるという考えを持たないことだ第一歩ではありますが、どうにかして伝えたい、わかってほしい、そんな気持ちは誰もが持つものです。
「わかる」とは
ところで、「わかる」ってどういうことでしょうか。こんな問いが出されたら、多くの人が答えに詰まるのではないでしょうか。私だってなかなか答えられません。この問いに正面から向き合ったのが、山鳥重(あつし)先生です。山鳥先生は脳の高次機能障害の臨床医で、人の脳機能障害に伴う認知状況の変化を間近に見てこられた方です。これまでの経験や知見をもとに「『わかる』とはどういうことか ー認識の脳科学(ちくま新書)」を書かれています。
以前のnote「「問う力」を養うことはできる?」の中で、重ね合わせ的理解と発見的理解のところで山鳥先生に少し触れていますが、今回は別の観点から「わかる」について考えて行きたいと思います。
山鳥先生曰く、「わかるとは、違いを区別できる」ことです。絵画の鑑定士、書籍ではお酒をはじめとした官能検査士などを例に挙げていますが、言われてみればその通りですね。”区別できる”ということは言い換えると”判断できる”ということにもなります。判断するには事前の経験や知識が必要になってくるわけです。ここで心の働きが重要になってくると、山鳥先生は指摘しています。心の働きには2つあり、1つは感情、もうひとつは思考です。感情は、それを持っている本人も理由をはっきりと説明することが難しく、”なんとなく”といった言語化しづらいものです。一方で思考はもう少し具体的にすることができます。
知覚することの大事さ
山鳥先生は、思考とは「心像(メンタルイメージ)を並べてそれらの関係性を作り上げる働き」と定義しています。ややこしいですよね。太陽の動きを例にしてみます。普段の生活では、太陽は東から昇って西に沈んでいきます。しかし、実際は”地球が自転している(事実)”のであって、人の知覚として”太陽が東から昇って西に沈むように見える(心像)”のです。つまり、心像とは事実から知覚した主観的現象のことです。また、知覚とは人の体に備わった感覚器官(五感)を通して情報を得る働きです。
事実は1つでも、知覚した心像は人によって異なります。なので同じことについて話していても会話がズレることがあるわけです。それでは、より事実を尤もらしく知覚するにはどうすれば良いのでしょうか。山鳥先生は”注意”する重要性を述べています。何かに注意することはとても大変ですし、”注意し続ける”ことはさらに難しいです。この何かが自分にとってとても面白く感じる、つまり”好奇心”があれば放っておいても注意が続きます。とはいえ、何に対しても好奇心を持てるとは限らない、いや、むしろ好奇心を持てない事柄の方が多いかもしれません。だからこそ大変な目にあうわけです。とほほ。
近年、五感を鍛えるための研修や体験学習が増えています。普段の生活では視覚や聴覚ばかり使うことが多く、触覚、味覚、嗅覚を働かす機会が激減していることが背景にあるようです(他にも理由はあると思います)。子供の発達教育においても感覚統合の重要性が多くの論文で指摘されていたりします。
ここまで、知覚することで何らかの現象を自分の中で作り上げ、何かと何かを区別することでわかることに繋がる、ということを整理してきました。しかし、これだけでは不十分です。”わかる”には区別した後の「同定」が必要になってきます。”わかる”までの道のりは長く難しいですね。
次回は、この「同定」についてみなさんと一緒に考えていきたいと思います。