遠くの親戚より近くの他人
今まで生きてきて、直接的ではなく、何らかのメディアを通して目にしたもので、現実を写したものとは信じられない映像が二つあります。
ひとつは、2001年9月11日に、NYの世界貿易センタービルで起きた事件の映像。
もうひとつはその十年後、2011年3月11日、東日本大震災で起きた大津波が街を飲み込んで行く映像です。
あれからもう8年も経ったんですね。
それでもまだ、被災地には十分に復興したとは言えない場所があります。
かつての景色が、もう二度と元に戻らない場所、それまでは人が暮らしを営んでいたのに、もう住むことができなくなった土地……
いまだに、落ち着いた生活ができていない人もたくさんいます。
それ以前に日本で起きた惨事で、最も大きなものは、おそらく太平洋戦争だったのでしょう。
それでも、戦争に負けて、日本中のほとんどの都市が焼け野原になったその8年後の復興具合を写真などで目にすると、今の東北のいくつかの場所よりずっと復興しているように見えます。
なんでなのでしょう。
1.そのときは復興支援の機運が一時的に高まったけれど、やっぱり東北に直接縁がない日本人にとっては、本当の「自分事」にならなかった。
2.今村復興大臣(2017当時)が「あっちの方でまだよかった」と口を滑らせてしまったので分かる通り、中央政府に関わる政治家や官僚にとっては「地方で起きた事件」に過ぎず、本気で復興に力を注いだとは言えなかった。
3.地震による直接被害だけでなく、原発事故が伴い、その事故処理や対応に人とお金と労力が掛かりすぎている。
4.戦後の復興期、二十世紀半ばと、二十一世紀前半の現在とでは、いろいろな意味で日本の国力が違う。
5.1950年からの3年間、朝鮮半島で大きな戦争があり、結果的に「戦争特需」が日本の復興を大きく助けた形になったが、今は「特需」になる要素がない。
このうちのいくつか、あるいは全部が関係しているのでしょうか。
いずれにしても、太平洋戦争の時とは違って、国を上げて復興にまい進してきたとはいえない気がします。
そうこうしているうちに、次の大きな地震が迫って来ているのかもしれません。
宮城県沖や房総沖で、M7~8の地震が起きる確率は、今後30年の間に90%と言われています。
30年の間にほぼ必ず起きる、といっても、もしかしたら今日かもしれないし。
一方九州沖から静岡沖にまで至る「南海トラフ」で、M8~9の地震が連続して、あるいは同時に起きる確率は、30年の間に80%程度とも言われています。
こちらも、今日起きてもおかしくない地震。
南海トラフ関係の地震は、大阪・名古屋・東京を含めた、人口と、経済、行政の機能が集中した(世界的視点で見ても異常なほど集中し過ぎた)地域を直撃することになります。
被害はお金に換算すると、1500兆円近いと言われています。まあ、これは少なめに見積もった算定でしょうが。
人的な犠牲も、想像を絶するものとなるでしょう。
おそらく日本の歴史上最悪……いやもしかすると、人類がかつて経験したことのない災害になるかも。
いまの状況でこれが起きたら、復興には、もしかすると100年以上かかるかもしれない。
それなのに、いろいろな事象を見るにつけ、行政は本当の本気で防災に取り組んでいるように見えません。
財界も含め、五輪だ何だといいながら、目先の利得や利害しか見えていない。
様々な面での首都機能の分散や、人口の分散など、「国家の形」から変えることを含めた、本気の防災対策が緊急に必要なんですけれど……それに手を付けるつもりは、どうやら行政にはない様子です。
行政がこういう状態である以上、、本当にどうしようもない非常事態が起きたときには、結局のところ、近隣諸国の支援を仰がないわけにはいかなくなります。
それには、日ごろからそれなりの関係を築いておくことも必要。たとえ難しくても、せめて努力ぐらいはしないと。
個人レベルでも、非常時に頼りになるのは、「遠くの親戚より近くの他人」とよく言われます。
なにもかもすべて「同盟国」(遠くの親戚)をたよりにするのではなく、「近隣国」(近くの他人)とのご近所付き合いも、しておかないと、いざというとき困ります。
何も災害が起きなくても、若い働き手の数が激減するのを止められず、どでかい借金も背負っている国、日本。
未曾有の大災害が起きたときの「復興」が自力だけで困難ならば、お金や物資だけでなく、おそらくは長期にわたる復興の過程での労働力を含め、他国の援助に頼らざるを得ない。
外交もまた、広い意味での「防災」のうちに入る、という視点を持たないといけないのではないでしょうか。
少なくとも、いまこの状況で、近隣諸国を敵に回して「戦争しよう」などと考えていては、お話にならない。
戦争なんかしているうちに史上最悪の自然災害に見舞われたら、それこそ日本は、独立国家としては、二度と立ち直れなくなるでしょう。
私たちの人生の後輩や子供たちが、生き残れるのか、生き残ったとしてもどんな悲惨な生を送ることになるか、想像するのも恐ろしいです。
国のかじ取りをする人たちに、すべて信じてお任せするのでなく、ちゃんと活を入れること。
どんなに気難しく、見方によって困ったことをする相手でも、「ご近所さん」との付き合いはきちんと保っておくこと。
3.11に考える、いま大事なことです。