《寝癖なおし》
陽炎が立ちそうな日差しだった
一日で尤も陽が高くなる時間帯
僕は最寄り駅にいる
馴染みの光景が目の前に広がっていた
これだけの気温でも長袖の人が目立つのは
直に光を浴びた後の疲れを
知っているからではないか
と僕は想う
電車に乗ると
向かいの座席に座る一人の男性が
マスクをしていないのが目に入った
周りの人々はさして気にもしていない様子
僕はどうかというと
確実に気にしている
気にしている自分に気がついた
周りの人間がやっているかどうかが
本当の僕の問題ではない
誰かがやっているからだとか
それは誰からみても正しいことだとか
ちょっと違うと思うんだよな
背もたれに体重をかけすぎないように
丁寧に座り直す
思っていたよりも
ことは順調に運んでいる
こんな感覚は誰にでもあるのだろうと
思いなおしていると
ほんの少しだけ
周りの世界が色鮮やかに見えた
結構原色に近い気がする
誰も知らないような街並みに
独特の情緒と懐かしさを感じるのは
僕の心が穏やかになった証拠だろう
とても落ちついている
今なら君のことも素直に考えられる
もうすぐ記念日だった