補完計画
残りの人生。
笑って過ごせちゃうくらい。
ボクはキミのことがキライ。
こんな自分は大キライ。
だから、幾ら頼んでも。
どんなに神様にお願いをしても。
ボクがキミをスキになることはない。
キミのことは永遠に許さないし。
ボクは死んであげない。絶対に。
優しくないのではなくて。
ボクが非情でもなくて。
決して、思いやりがないわけでもない。
キミが喜ぶ顔を。
笑顔も、微笑みもボクは観たくない。
理由はたった一つ。それだけ。
キミへの想い。負の感情が。
指先。爪先まで。
紅くなったヘモグロビンのように。
ボクのこの想いを循環していく。
ボクに痛みはない。
心は無傷のまんま。
最終的に円(つぶら)になった。
色彩はなくて。無色の透明。
美しい景色。
背景がまるで透けて見える。
まんまるの世界。
恐怖も不安もない。
あの日、水溜まりに映った。
キミの醜い素顔を
反対側から覗いたボクのように。
丸いだけの滴に生命を守られて。
円環の世界に。今、ボクはいる。
キミをキライで。よかった。
キミを嫌うことができて。
ホントによかった。
こんなボクにも出会えてよかった。
やっとボクの心は満たされた。
たった今、見事に。
夢のスキマの『補完』が完了した。
すべて、なにもかも。キミのおかげ。
ホントにお疲れさま。お陰さまでした。
『あなたの感情は』
『怒りは』
『只今』
『Completeされました』
『確認できました』
今、脳裏に。
Light Blue Colorのモニターに
表示されたメッセージをボクは観る。
『これにて』
『今回』
『あなたに与えられた』
『任務は』
『すべて完了しました』
『さあ、消えてください』
『いなくなってください』
『今』
『死んでください』
『あなたの生命を』
『強制終了いたします』
『再起動はありません』
『これは』
『プログラムです』
『初期設定の』
『あなたのデフォルトです』
そして、
ボクのAT.FIELD(自我の壁)が
ようやく解除された。
もうこの世界に未練はない。
キミがいない世界へ。
平和な安堵の世界に。ボクは行く。
希望の光だけに満ちあふれた
リソーキョーの扉が開く音。
君がボクの名前を呼んでいるのが。
遠く微かに聴こえる。
『その聲の主(あるじ)は君か?』
『輝いてるね、君の未来』
『そして、ボクの未来も』
この世に生きていく。
ひとりのニンゲンとして。
ただ、生まれたこと。
この世に存在することが。
ボクのすべてではなかった。
そのことに。
今、祝福の言葉を。
そして今、ボクは。
『エヴァンゲリオン』
『初号機パイロット』
『碇シンジ君』
ボクは。
君と乾杯がしたい。と願う。