◇コラム【新・食べもの通信16】トマト ~真っ赤なトマトのリコピンがあなたの健康を支えます~
初期のトマトは有毒植物に似ていた?
皆さんは、トマトはお好きでしょうか。サラダやスープ、パスタの具材など、日々様々な料理に活用されています。
トマトの原産地は、中南米のアンデス高地と言われています。ヨーロッパに伝わったのは、わずか400年ほど前の大航海時代でした。
ところが、当時のトマトはべラドンナという有毒植物に似ていたことから毒を含んでいると思い込まれ、鑑賞用として用いられていました。しばらくすると当時のイタリアの貧困層のなかに、食べてみる者たちが現れたのです。彼らは徐々にトマトを改良し、酸味の弱い食べやすいトマトを作り出したのです。そして18世紀になってようやく、現在のものに近いトマトが食用として拡まり始めました。
日本の需要は食の洋風化から
日本に入ってきたのは17世紀ごろ。徳川幕府四代将軍・家綱の絵師である狩野探幽(かのうたんゆう)が「唐(から)なすび」と呼び、作品を残しています。また、江戸前期の著述家・貝原益軒(かいばらえきけん)の『大和本草(やまとほんぞう)』(1709年)では「唐(から)ガキ」として紹介されました。
食用とされ始めたのは明治時代であり、本格的に栽培が始まったのは昭和時代に入ってからです。トマトの持つ独特の青臭さや、酸味がなかなか受け入れられなかったためです。
第二次世界大戦後には、食生活の洋風化、品種改良によって美味しくなったことで、需要が大きく伸びました。現在、主に流通しているのは「桃太郎」という名の大玉品種です。果肉がしっかりとして、熟しても身が崩れにくいことが特長です。
ジュースで簡単に生活習慣病予防を
トマトには「トマトが赤くなると医者が青くなる」という諺(ことわざ)がある通り、リコピン、カロテン、ビタミンCやB群、ミネラル類などの豊富な栄養が含まれています。
独特の赤い色はリコピンによるものです。リコピンには活性酸素の働きを抑える強い抗酸化作用があり、がんや動脈硬化の予防に高い効果を示します。
調理の際は加熱したり、油を使用すると吸収率が上がります。サラダに入れて食べる場合、油の入ったドレッシングを使用することがおすすめです。
また、リコピンは「いつ摂(と)るか」が重要だと言います。株式会社カゴメによる「トマトジュースを飲むとき、どの時間帯がリコピンの吸収率が良いか」という試験研究によると、朝が一番リコピンの吸収が良いことが明らかになりました。
リコピンの効果的な摂取量は1日15g程度とされ、これを生のトマトにすると約2個食べきらなくてはいけませんが、ジュースであれば150mlで摂取できるのでお手軽です。
ビタミンEは強い抗酸化作用を持ち、細胞内における「過酸化脂質」の生成を抑える働きがあります。過酸化脂質が生成されると、血管が硬くなったり、皮膚の色素沈着やシワの原因となる恐れがあります。ビタミンEは、血管や皮膚の健康を保つ上で重要な働きをしています。
栄養を逃さないで丸ごと使いましょう
ビタミンCも強い抗酸化力を持つことで知られています。トマトに含まれるビタミンCは熱に弱いという特徴があり、水に溶けやすい性質があるので水中に流れ出てしまいます。加熱する場合は、スープなど水分も飲める料理がおすすめです。
トマトの種の周りには、うまみ成分であるグルタミン酸が含まれています。パスタソースなどに使用する際は、ぜひ種を取り除かずに丸ごと使用してください。
購入の際は、皮がよく張っており、実の固く締まったものを選びましょう。手に取ってずっしり重いのも、一つの目安です。皮はよく色づいてムラがなく、ヘタ部分は濃い緑色のものが良いでしょう。ヘタが乾いていたり、黒ずんでいたり、キズのあるものは収穫から時間が経っており、傷みやすいので避けるのが無難です。
トマトは、私たちにとって身近な食材です。日常的に料理に取り入れ、健康や美容に効果のある栄養を上手に取り入れていきましょう。
(五島沙也可)
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初期のトマトに似ていた?
ベラドンナとは
ヨーロッパ南西部から西アジアにかけての乾燥地域に分布し、薬用として各地で栽培されている多年生草本植物です。花は初夏から夏に咲き、紫褐色で釣鐘状に垂れています。果実は丸みを帯び、黒紫色に熟します。
根・葉・実の抽出液は古くから鎮痛、汗止め、散瞳(さんどう)(瞳孔を開くこと)、胃潰瘍、神経痛、百日咳などに用いましたが、毒性が強いので民間の使用は禁忌(きんき)とされています。
実は現在のミニトマト程度の大きさをしているため、かつてのトマトもこのくらいの大きさだったと考えられます。
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