続・CDOってどんな仕事?
2020年にマネーフォワードのCDO(Chief Design Officer)に就いてから、3年が経ちました。3年経てばなんちゃらというもので、少しずつCDOという仕事のあり方も見えてきたように思います。以前、『CDOってどんな仕事?』という記事を書いたことがあります。その時にCDOの役割として4つのことを書きました。
経営にデザインを取り入れる
デザイン組織の強化
プロダクトデザイン品質の向上
ブランドの全体最適
この4つは今も変わりません。2から4はいろんなところでナレッジが語られていますし、デザイナーであれば身近な仕事ですので、皆さんイメージしやすいのではないかと思います。一方で1の「経営にデザインを取り入れる」については、語られていることが少ないようです。というよりも、実践者がほとんどいないというのが実態かと思います。今回はこの1について、詳しく書いてみます。
会社の「すべて」と向き合う
以前、Visionalさんのイベントでお話ししたのですが、「経営からデザインを活用する」というのと「経営にデザインを取り入れる」というのはちょっと違います。
前者はユーザー中心の考え方を会社全体で持ち、その実現手段としてプロダクトデザインやブランディングを行うといった話です。一般的にデザイン経営が語られる際に、多く耳にする話かと思います。もちろん、それ自体は大事なことで、私自身もCDOとして実際に担っている仕事の大半はこちらです。
一方、後者は「会社経営自体にデザインの考え方を取り入れて行くこと」です。デザインの考え方とは全体俯瞰して統合的に考えたり、目指すべき姿からバックキャスティングしたり、抽象と具体を行き来することでコンセプトを形にしたり、そういった類のものです。
経営において大切なことは何でしょうか?ファイナンス?事業戦略?組織開発?もちろんいずれも重要なことですが、答えは企業活動にまつわる「すべて」です。身も蓋もない話ですが、それが事実だと思います。では、経営に向き合って行く上で大切なことは何でしょうか?「すべて」に対峙するための「全体視点」とその変化を捉える「中長期視点」、複雑性を捉え直す「抽象化能力」だと、私は考えます。じつはこの3点ですが、先ほどのデザインの考え方ととても相性が良いのです。
一般的に企業活動は効率化を求めるほど、分業化、サイロ化が進んでいきます。つまり統合的な考え方は抜け落ちて行くものです。(Takramの田川さんが『サイロ エフェクト』という本を紹介されていましたが、そこに示唆が詰まっています)また一般的に、予算や目標の管理は半期、四半期、1ヶ月と短いタームで行われるので、短期視点の引力が働きます。これに対して、CDOは全体視点、中長期視点から、あるべき姿を考え、あらゆる物事をつなぎ、より良い状態へと向かうきっかけを作るのです。
経営の右脳になる
それでは、CDOとして何をしているのか具体例をご紹介します。まず辻さん(弊社代表)の思考整理のお手伝いです。定期的にお時間をいただきながら話を聞き、その内容を構造化しています。思考の壁打ち相手といった感じです。それはさながら、デザインでいうところのユーザーインタビューに近いのかもしれませんが、少し違うのは自分の考えも重ねるという点です。そして辻さんの右脳の拡張となることをイメージしています。「それってこういうことですか?」と何かに置き換えたり、違った角度の質問を投げかけたりしながら、思考を深めるのです。
そして次に、その場で見えてきたエッセンスをもとに、中長期の経営ビジョンを組み立てます。マネーフォワードという会社がこれから先、どのような価値を提供し、どのような姿を目指すのか。そのためにどのような強みを生かし、どのような変化点を作る必要があるのか、そういった大きな設計図を描きます。これは先ほどのエッセンスからストーリーをつむぎ出すような仕事です。『ストーリーとしての競争戦略』という本がありますが、まさにそのような感覚です。経営における「すべて」と向き合い、目指す姿を考える上で、デザインの統合的なアプローチやバックキャスティングは一助になると考えています。
辻さんと私が普段どのような会話をしているのか、先日開催された「Design Leader Impact Award 2023」で対談していますので、ぜひそちらもご覧ください。(2024年1月31日までアーカイブ配信中です)
経営に共創を生み出す
もう一つ、私がやっていることの例として、経営合宿の企画やファシリテーションがあります。マネーフォワードには複数の事業そして複数のグループ会社がありますので、合宿にはいろんな視点を持った経営メンバーが集まります。
その時々の重要な経営課題にピン留めし、それをクリエイティブにディスカッションできるような場の設計を行います。ワークショップ型にしたり、パネルディスカッション型にしたり、形は様々です。アジェンダによってはファシリテーションも務めます。経営における共創を生み出すイメージです。
さらっと書きましだが、いろんな領域でトップを張る皆さんが集まる場ですので、そこで共創を生み出すのは至難の業です。自分よりも圧倒的に経営やビジネスに詳しい方々と向き合うのです。でも、そこはデザイナーらしく立ち回れば良いと考えています。CDOはユーザーを中心に考え、事業横断的、組織横断的に動く仕事ですので、じつは経営の中でも統合的なアプローチを日頃から行なっている数少ないポジションです。全体視点、中長期視点をもたらすような場をデザインすることで、共創のきっかけを生み出すことができると考えています。
経営者と対話しよう
さて、ここまで「経営にデザインを取り入れる」ということの考え方や具体的な例を見てきました。先述した通り、デザインと経営には共通点があります。一方でそれを実践しているデザイナーは非常に少ない印象です。なぜでしょうか?
それは経営者との対話の量が関係しているのかもしれません。私の場合、学生の頃はデザインを学んでいましたが、新卒から3年間はデザイナーではなく、スタートアップの社長室で働いていました。その間に、様々な経営者の方にお会いし、お話しさせていただく機会がありました。その中で、経営者はどのようにビジョンを描き、どのように実行し、また何に悩むのか、そういったことに触れてきました。その経験から、経営とデザインの接点を見出すことができています。
デザイナーがプロダクトをデザインするときに、当たり前のようにドメイン理解、ユーザー理解を重ねるように、経営の理解、経営者の理解を重ねることが必要です。MBAを目指すのも一つの道ですが、近くの経営者との対話を重ねることが、最も実践的だとは思います。
デザイン経営宣言では語り尽くされていないこと
最後に、CDOをやっていて最もよく聞かれる質問が「デザイン経営を進める上で、デザインの効果を説明するにはどうしたらよいか?」というものです。正直なところ、自分自身はこの質問にあまり実感がなく、明確な回答を持っていなかったのですが、最近気がつきました。もしかしたらベクトルが逆なのかもしれないと。この記事で書いたとおり、私自身は全体戦略を経営メンバーとして一緒に描き、そこからデザインのあり方を考えています。デザインを全体戦略に組み込んでもらうのではなく、全体戦略から必要なデザインを考えています。
デザイン経営を進める上でCDOが担うべき最も重要なことは、もしかしたらこの記事に書いたような「経営のデザイン」なのかもしれません。CDOという仕事を担ってから3年経った今、デザイン経営宣言ではまだ語り尽くされていない「経営のデザイン」というものの輪郭が少しだけ見えてきたように感じています。
最後に
今年も最後まで「Money Forward Design Advent Calendar 2023」走り切りました!ぜひ、他のメンバーのnoteもご覧ください。また、マネーフォワードではデザイナーを募集しています。気になるという方は「Money Forward Design」もご覧いただけると嬉しいです。では、みなさん良いお年を!