無力な少年の物語/始まりの朝
「俺には、剣の才能も、力も、意志も、何もかもが足りないのだ。」
それに気付いたのは14の頃だった。夜中に、一人で。
俺の父は名を馳せる「剣豪」だ。俺もそんな父のようになりたくて生きてきたが、ここで初めて人と同じにはなれないと知った。
父はすごい人だ。かつて跋扈していたおぞましい怪物を倒し、人々を多く救ってきた。小さい頃の俺は、大きな父の背中を見て育った。逆に言うと、それしか知らなかったから、周りがどうとか、どんな夢があるか、というものはわからない。でも、俺には目指してきた夢は、遙か遠い対岸にあった。大きな川に阻まれ、自分と父はどこまで行っても違う人間で、生き写しにはなれないんだ。
翌日の朝、父は俺に言い残してから出かけて行った。
「お前には、俺のような才能はないかもしれない。だが、」
ーだからこそ、お前にしか歩けない道があるー
俺は、その言葉に勇気を貰った。
俺は決心したのだ。これからの人生は父ラインメタル・グラント・ガーラットの名に恥をさらすようなことはしない、と。そう誓った。
だが、この世界の魔獣と呼ばれる怪物は絶滅しており、その代わりにというべきか、人の姿をした悪魔によってこの世界の多くは恐怖で支配されていた。彼らは俺たち人間よりも力が強く体力も多い。
一説によるとある学者が「種の拡張」の実験に失敗し、それと同時に人間の変異体として現れた彼らはその学者の名前を取ってデフストと呼ばれている。
デフストの多くは力で他者を屈服させる。今もどこかで蛮行に苦しむ人がいるのかもしれない。
そんな世界、俺がかえられるのか。
俺なんかが・・・いや、本に書いてあった言葉を思い出した。「できるか、できないか。失敗か成功か。そんなものは、物事に不安を抱くよりも実際にやってみる方が人生の時間を無駄に使わずに済む。」
俺は少ないお小遣いが入った麻袋を握りしめ、武具屋に飛び込んだ。
人間がデフストに対抗できる術の一つ、武器の小剣と、防具に革の胸当てと手袋を買った。
頼りない剣の柄を固く握り、息巻いて力強く一歩を踏み出した。「そんな世界は、俺が変えてやる!」
そう強く思った時、少しだけ強くなれた気がした。
風が、答えるように強く吹き付ける。
「頑張れよ」と風に乗って誰かの声が聞こえた。
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