無力な少年の物語/新しい街

馬車に揺られてどれくらい時間が経ったのかわからない。寝ていたかもしれないが、目指すべき最初の街に向かっている。
「見えて来たぜ、お客さん。この先が不落の騎士が守る商業都市、エル・ハリェ・メアンだ」
入り口で降ろしてもらった。
「ありがとうございました」
荷物のついでとはいえ、ここまで運んでくれた御者さんにお礼を言う。
「いいのさ。話し相手が馬しかいねぇとつまらねぇからな。気にすんなよ坊主」

それから俺たちは多すぎず少なすぎない、適度な人の行き来の中を進んでいった。
「親切な人だったな。ティム、カルフェスさんから地図を貰っただろう。失くすなよ」
「お前もな。はぐれたら知らねぇぞ」
ティムと冗談を言い合って支援者が待ってくれている場所を手探りで見つけようとする。でも、やっぱりわからないから街の商人さんに聞いてみる事にした。
「あの、すみません。赤い依頼募集板はどこにあるかわかりますか?」
荷下ろしを終えて品物を並べていたおじさんに聞いた。
「ん?あぁ。君たちは見ない顔だね。よし、俺に付いてきてくれ」
案内してくれると言うので後を付いて行った。悪い人じゃないと思った。
「ここだな。ほら、探してた依頼板だぜ。じゃ、俺は仕事に戻る」
「わざわざ仕事を抜け出してまで来て貰って・・・」
「あ!例はいらねぇ。道案内も、商人に任せな。一体何回行き来してると思ってるんだ?・・・また困ったら来いよ」
「はい!ありがとうございます」
「・・・いいおっちゃんだったな」
ティムは少し後ろを付いてきていた。
と、鎧を着た騎士たちが前にやってきて、
「君たち、通行証は持っているかい?ここに入るには騎士の詰所で身元照会と通行証の登録をしなくちゃいけない」
「そうだったんですか、知らなかったです」
銀色の鎧を着て兜を外した優しい顔と口調の男性に、街に入るためには通行証が必要だと言われて初めて知った。
「紹介状があるんですけど・・・鞄に」
「紹介状?見せてもらっていいかい?」
カルフェスさんから騎士に疑われたら見せてくれと言われていた紹介状を取り出そうとすると、髭が濃い男性騎士がどかどかと足音を立ててやってきた。
「小僧!通行証は無いのか!出入りが多い都市では条例化されている。ましてやこの時期に・・・」
イライラしながら頭を抱える彼に、
「ケイゼ、彼らは悪人ではない。私に預けてくれるかい?」
優しい人がこう言ったら、彼は文句を言いながらも下がって行った。
「すまないね。君たちにはあまり関係のない事だ。さて、紹介状がそれだね」
俺が紹介状を渡すと真剣に読み始めた。そして、
「わかった。カルフェス卿の頼みか。君たちの人間性に目を付けたか。相変わらずいい目をしている方だ」
彼は微笑むと俺たちを手招きした。
「行こう。内容は確認した」
歩き出そうとしたその瞬間。
後ろから男性の声がして、
「おいガキ、邪魔だ」
叫ぶ余裕もない痛みと視界から全てが吹き飛んでいく感覚がした。
最後に見えたのはナイフを捨てて走っていく男性の姿。
小さく言葉が聞こえた。
「噂の通り魔・・・任せ・・・は少年を・・・」
「ザズ・・・しっかりしろ・・・」

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