無力な少年の物語/邂逅?
「騎士団本部、どこにあるんだろう」
「ここを右って言ってたよ」
俺は地図と街並みを交互に見ながら歩いている。
挨拶に行きたいが、騎士団本部の場所がわからない。
「あ、おい、見ろよ」
「なんだ?」
ティムが指をさした方を見てみると、ローブを深く被った人が歩いている。
「あの人がどうかしたの?」
わかりにくいとティムに聞くと、彼は言った。
「ローブを繋いでいるボタン、よーく見てみろ。あれ、絶対に貴族だ」
言われてみれば、龍と剣が描かれた目を見張る程の立派な刺繍が施されている。確かに偉い人かもしれないが、本当かはわからない。
「まずは慎重に・・・」
俺が話しかけようとしたティムはいなかった。
「ちょっと、そこの人。騎士団本部は・・・」
「ティム!?」
俺が慌てて追いつくと、ローブの人が手招きした。
「喋らない・・・ついて来いって言ってるのかな」
ティムが疑いながら後を付いて行ったから、俺もそうした
が、後ろに立つと俺と背丈が俺たちより少し小さい事がわかった。顔や声がわからないから何とも言えないけど。
そこから右に曲がって、大通りを左に曲がるとローブの人は立ち止まって指を差した。
「ここなの?」
俺が聞くと頷いた。
「わかったよ。ありが・・・」
お礼を言う前に、ローブの人は人ごみの中に紛れていなくなってしまった。
少しがっかりする俺の後ろから荷車を引いて男性がやってきた。通り過ぎた男性は汗だくで、輝く鎧を身に着けている。騎士だ。でも、なんで騎士が荷車なんて・・・?
いや、今はいい。とにかく挨拶しに行こう。
「何か用か、旅の少年」
「あ、すみません。カルフェスさんから教えてもらって来ました。この前の通り魔のヤツの事、心配させてしまったみたいなので、ご挨拶だけでもしておきたいです」
「俺はティムで、こっちがザズ。騎士団本部はここですか?」
「ああ、君達か。わかったよ。入ってくれ」
門番はすんなり笑顔で迎えてくれた。
「で、でっかいなぁぁ・・・」
「こいつは凄いや」
大きく重そうな扉の前で立ち尽くす俺とティム。ここが騎士団本部だ。緊張してきた。
「君たち、本部は初めてかい?俺が案内しようか?」
爽やかな声が聞こえて来た。
「あ、さっき荷車を引いてた人だ・・・見てたのに、手伝わなかった・・・」
せっかくあの場にいたんだから、手を貸しますよくらい言えばよかったかな。
ちょっと申し訳ないなと俺が言うとその人は、
「ははは、何を言っているんだ。一般人に手伝われるのはちょっと違う。荷物運びだって、騎士の仕事だよ」
「じゃあそう言う事で」
まぁ、いいのかな。お節介すぎるのかも。俺が。
「おっと、俺はハケローだ。騎士団では下っ端過ぎて、雑用係みたいになってるけどな。でもあのお方の雑用なら・・・最高の幸福だ」
大変な人みたいだけど、知らない人が出て来た。
そこを聞いたら良くないかもしれない。人にあまり踏み込むと気まずくなる時があったから、その経験。
「大変じゃないですか?」
「これが楽しいのさ」
ティムの心配も吹き飛ばすくらい快闊としている人なんだ。俺も見習いたい。
ハケローさんは、荷下ろしに戻るから、何か困ったら周りの騎士に聞いてくれと言って戻って行った。
通り過ぎる騎士の人たちに挨拶や会釈をしつつ広い廊下を歩いていった。
俺はずっと気になっていた。
ローブの人のローブに描かれていた模様は騎士団のものだったはず。それなら、言いそびれてしまったお礼も言えるかもしれない。
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