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寄せ集め部隊/煙に巻かれる

「マイク君、クリストファーだ。怪我は無いかい?」
輸送車が再び走り出した頃に、忘れかけていた連絡が入った。クリストファーは大きなテントを設営して簡易救護室を人員と共に支えている。
「持ち場を離れた。それを説明しよう。余裕が無いから聞き取れなかったら済まない」
クリストファーが人員の怪我の対応をしている時、伏兵がいるのに気が付いた。そいつが援護を要請する素振りを見せたから治療を施した後に急いで銃を取りに車に戻った。
「それが、大変なのか?」
俺には意味がわからなかった。狙われているのかどうか。
「あぁ。怪我をした人員が、組織のスパイだった。彼らに紛れ込んでいた。私の所に来て、隙があれば増援を呼び一網打尽にしようとしていたらしいのだ。だから、解析班に状況把握を依頼している」
「えぇ!それって俺たちの情報が渡っているって事じゃ!?」
「そうだろう。少なくとも、顔と装備は知れているかもしれない。急かすようで悪いが、早く追わなければ逃げられてしまう」
それじゃあ、俺らは急がなきゃ駄目だ。
と思ったその瞬間、グリムスさんが駆け寄ってきた。
「たった今連絡が来た。生き残った組織の人員は国境を越えて移動している。伝手を辿って空挺監視隊に協力を要請した。今回の件で大幅に警戒を強めただろうから動き出すことは無いと思われる。本部は現状を加味して現地の特殊部隊と彼ら自警団員に一任してくれと言っていた」
あれ?ということは・・・
「撤退命令だ。私たちの役目はここまでだな」
任務があっさり終わった。

手配組織制圧作戦(命名・俺)はあっけなく幕を閉じた。しばらく身動きを控えるだろうし、傭兵に夜通し手伝ってもらうほど余裕が無い訳では無かったらしい彼ら自警団員。
俺らが合流して本部に戻った時に、無駄な時間を使わせてしまって申し訳ないと謝ってきた。そんな必要は無い!って言ったんだけど・・・。
ただ、奴等を懲らしめるのはできなかった。追いかけてくれているとはいえ、逃がしてしまった。みんなは悪くないから、ここは適材適所。担当してくれる人たちに任せよう。
ほんの気持ちと言いつつもそこそこ高いご飯を食べに行けるお金を報酬にしてくれた。いいって言ったのに聞かなかった。
だが、もう1つとっておきの報酬があった。
「カーリマンっす!今日から仲間、皆さんどうぞよろしく!」
自警団員のクレモ・カーリマン。明るく面倒見のいい青年で仲間内でかなり好印象な1人。
新しい事を始めたくて自警団員から転職したかったらしい。
「情報伝達専門なんで、銃は持ったこと無いっす。なので、連絡と・・・」
彼は足元に立て掛けてあったギターを持ち上げる。
「こいつで稼ぎます!学生時代から路上ライブやってました。儲けはほぼありませんけど、楽しいっすよ!」
悪い奴じゃなさそうだ。
「おぉ・・・よろしくな」
「はい!あ、マイクさんたちとはちょっと・・・ずっとはいられません」
ところが、さっきまで笑顔だった彼は暗い顔になってしまう。
「どうしたんだ?」
「自分、お袋の脚が悪くて、いてやらないと心配なんです。お袋はいいって言いますけど・・・やれることはやってあげたいから、だから・・・」
言いたいことはわかった。
「いいぜ。別に一緒にいろって縛り付けるのは嫌だしな。だから、たまにメールか電話でもくれりゃいいからさ。自由にしてくれ。寄せ集め部隊はそういう場所だからな」
そう言うと、カーリマンは目を輝かせて頷いた。
「いいんですか!?ありがとうございます!」
「当然だ。お袋のためにって、俺より立派だな」
「えぇ、そうですか?」
こうして仲間が、1人増えた。
本人の自由の意志を尊重しつつ根本は崩さないで行きたい。いや、そうしないと夢に近付かない。
カーリマンという賑やかで陽気な青年を仲間に加えた、その事を喜ぼう。小さいかもしれないが、1歩を踏みしめた。

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