無力な少年の物語/何をしようか

「ザズ、起きたか!」
どうやら俺は行き来する旅人を狙った通り魔にやられたらしい。そいつは有名で、指名手配されている。
「あ、あぁ・・・心配かけてごめんよ」
「謝る必要なんてねぇよ。あいつがわりぃんだからさ。動いてもいいけど、傷が開くから走ったりするなって。気にすんな、騎士がしばらく泊めてくれる。よかったな」
「あぁ。だけど、あの後どうなったんだ?」
「言ってなかったな」
それからティムは話した。
俺が倒れて、騒ぎを聞きつけた騎士が駆け寄ってきた。その中に偶然待ち合わせ相手がいたらしく、ティムと俺はその人に引き取られた。
「それでさ、その人っていうのが・・・」
ティムが言いかけた時、扉が叩かれた。
いいですよと言ったら入ってきた背の高い男性に見覚えが・・・
「えぇぇぇぇぇ!!!嘘・・・だろ!!?」
「嘘じゃないさ。私は本物だよ」
魔人の反乱から一国を守り切った英雄・スレイ。
彼はこの街に拠点を置く名誉騎士の1人として世界中で知らない人はいない程凄い人だ。
生ける伝説とも呼ばれている人物が俺と同じ部屋にいるなんて!信じられなかった。
「落ち着いたかい?」
「は、はい!だ大丈夫ですす」
「緊張しないでくれ。ここではただの爺さんだよ。改めて、はじめまして、ザズ少年。カルフェスからの手紙は君たちを差しているのは間違いないとティム少年に聞いた。ヴァルキリー・スラフトセンだ。ヴァルキリーは母の姓だから、スラフとでも呼んでくれたまえ」
伝説のスラフ。俺には今までの人生で一番の衝撃だった。カルフェスさんが根回しをしてくれた人がまさか・・・
「救国の騎士だとはな・・・俺もびっくりしたぜ」
ティムも驚きを隠せないらしい。
それは当然だと思う。
「どうか、固くならないで欲しい。綺麗ごとを言いたい訳では無いが、伝説だなんて言わないでくれ。どうも居心地が悪い」
「あ、そうですか。すみません」
「いいさ。気にしないでくれ」
彼はゆっくり立ち上がると俺に身体を気遣ってと言って、落ち着いた時間を過ごして欲しいと言い残し、書類仕事をしに行った。
パタリと扉が閉まった後、俺は痛みが吹き飛んだ。
「スラフさんに会えた!カルフェスさんが協力をお願いしたのはスラフさんだったんだ!」
「おぉぉぉ!!すげぇぇぇ!」
俺とティムは迷惑にならない程度に飛び上がって喜んだ。

しばらくはしゃいで一息ついた俺たちは、お屋敷の中を見て回ってみようと思い立った。
広く長い廊下を歩いて階段を降りようとしたとき、人影を見つけた。階段を上がってきて姿を見せたのは、通行証の事を教えてくれた騎士の人だ。
「君たち、無事だったか・・・」
彼はそれだけ言うと頭を下げた。
「え!」
「すまない!騎士として不甲斐なく思う。こちらが注意していれば防げた物だった。本当にすまない」
俺が刺された事を気にしているみたいだ。
この人は悪くない。けど、俺は必死に言葉を探して、
「だ、大丈夫です。別に、気にしなくていいですから。今こうして歩けていますし、それでいいんです」
気の利いた事は言ってあげられない。でもこれくらいはしたい。俺なんて言葉足らずだけど。
「申し遅れた。衛架騎士団のマリュセだ。気を遣わせてしまってすまない。あの時は・・・いいや、もうやめにしよう。ここにいる理由は、騎士団総会議が間近に迫っているから、ヴァルキリーさんのご厚意で泊めてもらっている。君たちの事は聞いたよ」
マリュセさん、名前は初めて知った。
俺の怪我を自分のせいにしようとしているのを必死に押しとどめて。
「そうだ、君たちは騎士団本部に挨拶に行ったかい?ヴァルキリーさんが説明してくれたから、彼らの怪しいヤツという誤解は解けたはずだ」
騎士の拠点・・・気になるけど。
仕事の邪魔になるのではないか・・・
「ザズ、仕事を邪魔するんじゃないかって思ってるだろ」
「はっはは。それは無い。訪ねてくる人を邪魔だなんて思う人はいないさ。いたら私が引っ叩いてやる」
マリュセさんもそう言っているし、いいのかな。
ヴァルキリーさんに伝えてくれると言うから、俺はティムと騎士団本部の建物を目指す事にした。

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