Reine Liebesplatte/依存気質

夜中に机に便箋を広げて、恋をした相手に愛情表現をしようとしている女子高生がいた。自傷行為で傷だらけになった手で甘い言葉を書いている。
彼女はマクレナ。18歳のロマンチスト。

恋愛感情は人それぞれある。が、彼女に「普通」の価値観を育てる事はさせてもらえなかった。
父親は毎晩賭けで負けた八つ当たりをしてくる日々に嫌気がさしたマクレナ。今までそれを癒してくれるものは小さな頃から好きだった猫だけだったが、最近は悩みを相談した高校の友達にいい人がいると紹介された男がいた。しかし、その男には問題があった。
財力がある人間が立場が高いと思いあがっていた事だ。
そのため、裕福とは言えないが不自由のない暮らしを送っていたマクレナは、その侮辱に対して精神的な痛みを我慢してきた。
その一点を無視すれば、男は思いやりがあり温厚。不服ではあったがそこに惹かれたマクレナにとって理想のパートナーだった。
彼は前述の思考が無ければいい人だった。
誰もが求める心優しい恋人そのもの。
少なくとも、周囲も彼女もそう思っていたが、歪ながらも平和だった日々は徐々に変わってくる。
経済的にも、精神的にも支えになっているマクレナは、価値観が異なる彼を離す事はできなかった。一度好意を持ってしまえば依存するマクレナの性質に気付いた男は、彼女の恋愛感情を悪用し始めた。
甘い言葉を投げ掛け、ストレス発散に多少の暴力を加え、様々な場面で言いなりにしていた。都合のいいように。
男は思い始めた。案外大したこと無いと。
調子に乗り始めた男の嫌がらせは悪質になっていった。
だが、どうしようもない男にこれまでの報いがやってくる。

ある夜にふと目覚めたマクレナは、猫の声で目が覚める。
「喧嘩でもしてるの?」
寝室のカーテンを少しだけ開けて確認した。
彼が野良猫を虐めていた。しかも、マクレナに一番懐いている子。
心の中には、混乱と怒りがぐちゃぐちゃに混ざった。
信じていたのに。口だけが悪いと思ってたのに。私を殴るのも、表現が変わっているだけだって自分に言い聞かせてずっとずっと我慢していたのに。
我慢して、我慢して我慢して我慢して我慢して・・・
「あなたには呆れた」
極めて冷静に握りしめた包丁を手に家を飛び出し、そこからは覚えていない。
マクレナは、男を刺した。だが、罪には問われなかった。
「なんで?」
当然疑問に思い、父に聞いた。帰ってきた返事が、
「あぁ。当然だろ。警察を買収したんだ。お前がいい大学に行って、いい勤め先に行かないと俺たちに金が入らないからな」
マクレナは父も刺した。もう限界だった。精神が壊れるまで、父の愚痴に付き合っていた。母も母で、お金さえ稼げれば、娘の精神状態なんて気にも留めなかった。
血に濡れた包丁を机に置いて、地元警察に自首しようとした時、母が帰宅した。玄関に立ち尽くす母は、恐怖と怒りに駆られて叫んだ。
「お前はゴミだ!」
マクレナは無言で部屋の隅に置いてある空の植木鉢を手に取る。
植木鉢には季節によって変える観葉植物を用意しようとしていたが、その代わりに母の頭に振り下ろした。

家庭環境と性格の悪い人間に囲まれたマクレナは、いつしか傷付ける事が愛なのだと思うようになっていて、その精神状態は非常に不安定だった。
「愛・・・だよね」
擦れる声で呟くマクレナは、愛情表現を真っ直ぐすると決めた。

これは、彼女を歪ませた代償の物語。

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