17日目、仲直り。
母と喧嘩した翌日は電話とメールしなかった。
なので、水曜日の朝に
「お父さんと電車乗っていきま〜す♪」という
文面に、またこのエセポジティブなノリだと
心がずっしり重くなった。
およその、到着時間の14時半にあわせて、
すべての用事を済ませる
眠剤が残ってて足元がフラフラするが、
はじめての長期睡眠に身体は落ち着いて、頭はクリアだ。
「きてくれるん、ありがとう。今日は休戦にしようね」
今日は楽しい話題で過ごしていいや。
時間や機会はまたある。いそぐな。
処置の時間と重なってすこしお待たせしたが
両親が笑顔で待っててくれた、
寒かったよねーなどとたあいない話しをし、
少しずつ視線や口調でいつもの感じを
取り戻していく。
面会最後の15分、
「昨日、弟とこれやってんけどさ」
子どもニーズカードをだす。
お母さんは1度やっているが、新鮮な表情してる
「たかちゃんが作ったカードやねんけど、たかちゃん覚えてる?可愛いカードやろ」
両親ともたかちゃんを知っている。
これが感情、こっちがニーズ、願いな
テーマがある方が選びやすいかな
じゃ、セレンが癌になってどう思った?ってテーマにしよう
聞いてどう思った?
母はさくっと2枚選んだ
父はまだ動かない
ゆっくりでええよ、字を見てもいいし絵を見てもいい
母はさらに2枚とった。
手前に置いて並べてみて。
父は母の様子をみている。
そしてゆっくり2枚選んだ。
自分が欲しいカードを相手がもっていたら
ぼくもこれあるでって教えてな
出てきた感情カードは6枚
ひとつひとつよみあげる
これがセレンが癌になって感じた感情やな?
あってる?ピッタンコな感じ?
ふたりともすっとうなずく
よし、そしたらつぎな、
この感情がでるってことは、その奥に大事にしてるものがあるからやねんな、
こんどはその水色から選ぶんやで、
びっくりしたって感情がでたな、それは何を大事にしてたのに揺らがされた気持ちになったからこれが出ちゃったんやろね
だとえば、安心が大事やのにそれが覆りそうになって
こんな感情がでたって聞いてみたらどう?
母は、早かった。あーそれなら、これ、これも。
父はフリーズしてる。
もう一度感情に戻って、
お父さんはセレンが癌になってこう思ったんやな
それはお父さんが何を大事にしてるからでた感情なんやろな、たとえば安全、こどもらの安全を願っているのにそうじゃなくなったから感情でたんかな
それとも、予想してた未来が見通しがつかなかくなったから、心配がでてきたんかな?
これは大切にしているものとちかい?
喜一はゆっくり瞬きしながら、声も出さず
集中してる。
そして、ゆっくりと、そうやな、それやったらこれやな。
とニーズカードから一枚、二枚とカードをとった。
横で母が4枚目のニーズカードをとって
なぁお父さんからもあると思わへん?
声をかける
父はほんまやな、それもあるな
2人のてがとまったとこで
セレンの癌がわかって、〇〇なきもちやったんやな
と一枚ずつ読んであげる
うんうんと頷いている
ニーズカードも同様に、よみふたりは
よみおわったあと、ふーと背もたれにもたれた。
ちょっと感じる時間をとろうな、きゅうけい。
息の速度がもどっていく。お疲れ様。
そして、最後に。
人間て怒ったり泣いたりするやろ、男やから泣くな、静かにしろ、なんて親から言われたりする。感情表現をしかられ、躾されることが親の役目とされてるところがあったよな。
でも、子どもが本当にきいてほしいのは水色やねんな。
このために泣いたり暴れたり怒ったりする
これを知って欲しいねん。伝えたいねん
大事な人に大事なことをしってほしいねん
うちの家は仲良くしてきたけど
こどもの話をきいてもらったきおくがない
2人とも一生懸命愛をかけて命を守ってくれたけど
こんな話はなくて
親からの一方的な話をだまってきくのが常やった
あたしはそれが嫌で実家からにげだした。
昨日までに兄弟みんなに電話した
私だけがそうおもったんか、ほかはどうやったんか
きいてみたねん
みんな、おなじこたえやった
自分の話はきいてもらえへん、自分で決めないといけないとおもったって言ってた
兄が口下手なんも、しゃべってもなんもならんし
めんどくさくなったからってゆうてたわ。
あの人がわたしと1時間くらい電話することあるねんけど、あなたたちかれがそれくらい話す人って知ってた?
両親は驚いた顔で首を横にふる
セレンが一方的にはなすんじゃないんやで、
結構あの人おしゃべりやねんで
話すには聞いてもらえる前提があるねん、
子どもの頃は親は絶対の存在やったから
言われへんかった
でもいまはちがう
それぞれの働き先、いえがあり、家庭があるこもいる
今までと違う環境になった
おとんおかんは仕事をたたんだ。
親子やからまったくの同列ではないけど
でもひとりひとりを尊重した話をしたい
わたしが月曜日にいいたかったのは
このこころの大事なところを話したいと言っててん。
楽しいだけのはなしじゃなくて
何が大事で何に悩んでるのかを話せるようになりたい
それを少しずつやりたいとおもってんねん
ふたりは静かにきいてくれた
めいっこがこのカードをきにいっていること、
母はしっている
こどもはわかるねん、聞いてもらってるって感じが
どんな感じか。
みんなともっと仲良くなりたい。
それだけです。
それから旅行の話しよな。
2人はなにかいいたそうだけど
言葉にならないみたいでもごもごと口を動かし
そして面会時間の終わりが来た
気をつけて帰ってな
父は終始無言だったが、にこっと笑顔をみせた
母はつぎは土曜日、土曜日来るからまた欲しいのあったら言ってや、
タイミングよくきたエレベーターにのって
すぐ扉がしまり、かえっていった。
ふー。口がからから。
手応えなんてわからん。
でも、たかちゃん、すげーの世に生み出してくれて
ありがとう。
セレン一家の大進歩の最初の日やで。
この会話を当たり前にする。
わたしなら、わたしたちならできる。
なんだか泣きたい気分でへやにかえった。
少し横になるつもりが眠ってしまった。
今夜も眠れそうな予感がする。
はー、やりきった。