女であることについて話をしよう〜『女子をこじらせて』(著・雨宮まみ)を読んで

ずっと気になっている本って、読むタイミングが人生のなかでたぶん今じゃないなって感じるとずっと自分のなかの取り置きリストの上のほうに載ってあるまま何年も置かれてしまいがちになる。
この本がまさにそうで、私の中の直感が「今」読むべきではないとずっと言っていたのでなかなか読めず、数年前に著者の雨宮まみさんが40歳の若さで突然亡くなってからはあーやっぱりまだ読めない、となおさらその思いを深くしてしまった。
亡くなったニュースを見た瞬間に、あの本もう一生読めないかもなと頭をよぎったのを覚えている。

特にここ数年は本はおろか漫画ですらも活字を読むのがめんどくさい&とにかく抱えているものの数を減らしたくて本という形ある媒体を家に入れたくないという時期を過ごしていたのでさらに放置されていたのだが、最近はスマホでも電子書籍で気軽に本が読めるようになり、決して読書好きではない私も興味があるものはそれなりに読むようになった。

その中で雨宮さんと親交の深かった能町みね子さんの最近の作品の『結婚の奴』を読んだところ(これもとても良い作品でした)、雨宮さんのお葬式で能町さんがお焼香を投げつけた状況や心境が書いてあって、やっぱあいつもそろそろ読んどく時期か…とふと思ってしまった私は電子書籍をうっかりとポチったのである。
雨宮さんの人生が終わった後、自分の人生についにこの時が訪れた。

結果として私のあのときの直感は正しかったと思う。
もっと前に読んでいたら打撃が大きくてたぶん死んでいた。か、もしくはふーんで終わってゴミ箱につっこまれていたか。
やっぱり人生にはちょうどいいタイミングで必要なものがおりてくる。神様ってわりとよくわかってますね。

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これでもかと自分の奥底にへばりつくどろどろの部分まで書き綴ってあって、不特定多数の顔の見えない読者に対してであるとはいえここまですべてをつまびらかにすることはとてもじゃないけど普通の人間にはできないし、さぞ怖くて痛かっただろうと想像する。
雨宮まみさんの文章はネットの人生相談連載『穴の底でお待ちしています』(この表現もとても好き)でもよく読んでいたが、読者への言葉はめちゃくちゃ優しくあたたかみがあるものばかりで、本当に同じ人間の文章かな?と思うほどの違いを感じずにはいられない。

自分への気持ちと人への気持ちを同じようには持てない苦しみがあったのかもしれないとも思うし、人って意外とそんなもので、ミルフィーユみたいにいっぱいいろんな層が重なって一層はいだらぜんぜん違う色と味のケーキが見えるみたいなものなのかもしれないとも思う。

なにせ女であることへの過剰な自意識とか、自己防衛みたいなものがこの人の場合かなり極端な形で人生の選択に現れていくのだけれど、ここまで突き詰められるかは別にして、こういう思いには大変共感した。

断っておくが別に私は女性が男性にくらべて差別迫害されているからなんとかしろというような極端なフェミニズム論者ではない。
女性が社会的弱者だとも今のところは思っていないし、男は女に比べてラクでいいわねとも毛頭思っていないので、そこは誤解しないでほしい。
当然男性には男性ならではの悩みや葛藤があると思っています。

ただ、かわいい、きれい、色っぽい、世間でいう女らしい、みたいな「女としての評価」と、仕事ができる、人間性がいい、人とうまくコミュニケーションがとれる、みたいな「人としての評価」の狭間でバランスがとれなくて溺れる様みたいなのはとても心にくるものがある。
それがイコールである虚しさ、どちらかが大きくなったときの自分のなかでの矛盾や恐怖を知っているからこそ、そこに絡む自己評価や劣等感もはらんだ自分自身の厳しい目線とかの自分で作り出したものに自分で耐えられなくなってしまう。

線を引いてもたぶん意味のないところに線をひいて、自分を追いつめていく極限の姿みたいなものを見た。
しかしそこで「なんでそんな意味のないことを?」と言ってしまえるとしたら、それは「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」ばりにパンチあるセリフだと思います。

そういう中で女としての承認欲求が絡む恋愛みたいなものって、一度や二度は経験したことのある人も多いのではないか。
ボロボロにされた男に泣きながら会いにいったら「こんなの見たら小さいことどうでもよくなるからさ」って言われてナスカの地上絵を見せられてそーゆーことじゃねー!ってなるエピソードとか震えるね。

女として評価されることが心底いやなのに、女であることを心底楽しんで生きることを諦めきれない矛盾をはらんだ気持ちを処理できない感覚はとても伝わってくる文章であった。

そこには年老いて容姿が変わっていくことや、結婚、女性ならではの生物的特徴の妊娠・出産なども延長線上に語られるべきことではあると思うが、この本ではそこは描かれていない。
というか、そこまでもいってないというべきか。。

巻末に漫画家の久保ミツロウさんとの紙面対談もありそちらはコミカルでマイルドだが、外には見えないだけでこういう感覚を抱えた女性はわりとたくさんいるのではないかと思う。
自分を掘り下げる、自分の奥底や葛藤を表明するって、本当に怖くて勇気がいる。
これは男女関係なく、みんなありようは違ってもどこかで何かを深く抱えているものですよね。だからこそ他人にも自分にも優しくありたいと願うのです。

その点終始「人としての自分」と「女としての自分」の折り合いがつかず苦しむ様子、そこから自分が得た考えなどをこのエッセイは正直にすべて書いてある感じがして、とても痛々しくそれでいて清々しさすら感じた。
そこに対してまずは最大限の賛辞を送りたい。

もちろんその二つってまったく別物ではなくて、表裏一体というかある意味同じひとつのものだとは思います。

私の好きな新日本プロレスだって、昨今はベビーフェイスよりもヒールやら独自団体のほうがだんだんヒーロー化してきて何が善で何が悪かなんてもはやあってないようなものだもの!
かくいう私もプロレスにハマるきっかけはCHAOSだったもの!CHAOSなんてもはやヒールではないもの!
SNSでなんでも見せられる時代、ヒール感というか闇の部分をずっとアピールし続けるほうがむしろ難しいでしょうし。そんなぱっとわかりやすいことばかりではないのですよね、人生って。

…話が逸れた。

***

いつか自分が女であることに納得できる日がくるんだろうか。
でもどこまでいっても女である自分も自覚しているのでタチが悪い。

ちょっと前になるが、年下のとある男性に「あなたはこれから歳を重ねるごとにどんどん美しくなっていくタイプの女性ですね」と言っていただいた。
そのときににっこり笑ってうれしい、とそっと言えるような私ならよかったけれども、なぜか自虐に走り結果必死に否定してしまう自分がいた。謙遜とかではない。
女としてここで簡単に喜んではいけないとかいうよくわからない警戒心とか、自分への感覚に対するギャップ、女の自分ですらよくわかってない「美しさ」に関して男性に先に答えを出されているような焦燥感というか、なんだかいろんな感情がまじってどう反応したらいいかよくわからなくて気づいたらそうなった。

あのときの私の慌てふためき様といったら…
今でもそのときの自分を思い出して上から幽体離脱みたいに眺めてはいたたまれない気持ちで胸がぎゅっとなるわ。その男性にも今となってはいろんな意味で大変申し訳ない。

文字にしてみるとなんとありがたいお言葉か…
まったく色気もなく男女としての利害関係など何もない場面で突然そういうことを言える男性にたまげたし、その人は単にそういうのを言い慣れていて社交辞令のひとつだったかもしれないし、普通に文字として読んだらあれ?口説かれとったんかな?…真意はよくわからないのだが、まあそれを素直に受け止めて喜べる私、もしくはシラフでこんなことさらっと言える男性もいるのねと受け流せる私であれば、少なくともこの本を何年も寝かさなかったであろうと思います。

いろんな方の?名誉のために言っておきますが、この男性とはそのときもその後も今も、本当に何もありません!それはもう一点の曇りもないほどに!

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雨宮まみさんの最期の想いがどんなものだったかは誰にもわからないけど、こういう想いでこういう人生を生きた人がいたということは今でもずっとこの世に残ってますよ。
見つめまくって穴が開いてなおそれにとどまらず、足元に目線で自分の墓の穴がごりごりに掘れるのではというほどにあなたが見つめた自分というもの、女というもの、そしてそんなキズやある意味での欠陥(あえてこう表現したい)に心動かされたり共感したりときには否定したりする人たちが今もこの世で生きています。

雨宮さん、あなたがこの本の中で書いた文章の「あの本さえ読んでなければ自分の人生は違っていたかもしれないという本」、私にとってこの作品はまさにそれです。
女というものを死ぬまでつきつめたあなたが歳を重ねていったときに女としてどう感じていくのか、とても知りたかった。

ああとにかく胸がずきずきする。
この本を読んで、なにこれ意味わからんって思える側の人生を私だって送りたかったわ!

でもその中に、なんだかちょっと希望の光も見出せそうなのです。
今まで抱えてきたものに名前がつきそうな予感のはしっこみたいなものです。
そのうえで、やっぱり女としての人生を美しく全うしたいという気持ちもあるわけです。

女ってなかなか生きづらくてめんどくさい生き物ですよね。なんつって。
それでも死ぬまで私たちは女でいることをやめられません。

もう歳をとらない雨宮さんのご冥福をお祈りします。


2020.11.7

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