日本憲兵外史④ 上空に友軍機なく、地上に重戦車なし
命令五、の続き
全市の周辺および各地区の周辺には、遅くとも明後日払暁
までに対戦車壕を構築すべし。
対戦車壕は、敵重戦車の攻撃に耐え得るために、幅六メートル、
深さ三メートル以上なるを要す。
在京各部隊並びに各地区防衛部隊は、本築城のために全力
を傾倒すべし。
各地区防衛司令官は、本築城のため全市民を動員するものとす。
この時、関東憲兵隊司令部から出向した宮本憲兵少尉は、
前掲著書でその感想を次のように記している。
「計画や壮なり。しかし、新京は環状線だけでも約四〇キロある。
満人はあてにならず、最近の在留邦人は老幼女子が多い。
どうしてこの計画がわずか一日余にして実施できようか。
この命令伝達の最中に、佳木斯憲兵隊長から新京地区特別警備隊長に
着任した和田大佐が着任の挨拶に顔を出した。
まことにその場にふさわしくない情景であった。」
ソ連軍の極東増強以来、対重戦車戦法は焦眉の急であった。
かってのノモンハン事件以来、身に滲みているはずの関東軍首脳は、
これさえおろそかにした。いやできなかったのかも知れない。
上空に友軍機なく、地上に重戦車なし。
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