【エッセイ】娘の合宿にいろいろ心配したけど魔法使いになって帰ってきたから安心した話。
小学5年生の娘が、この夏休みに「山・海・島」体験活動に行ってきた。
2泊3日かけてお隣の島根県の青少年の家で行う集団宿泊行事である。
「山・海・島」体験活動とはなんだろう。
正直40年生きてきて初めて聞いた。
私が小学生の時にはなかった。
せいぜいが、小学校内で1泊の合宿だけだった。グラウンドで飯盒炊飯をし、体育館で雑魚寝であった。
さておき、子育ての先輩でもある友人に聞くと、「ああ、あれね」と訳知り顔にうなづかれた。どうやら、友人のこどもたちは経験済みのようだ。
それは「林間学校」とは違うのものだろうか。
一体何のために行われるのか、どんな活動をするのか。
わからないことが多いと心配なのでリサーチしてみた。
「山・海・島」体験活動とは
6月に保護者説明会があり、配られた資料に活動の目的が書かれていた。
「日常とは異なる環境での生活を体験し、児童の自立心や主体性などを育て
るとともに、体験先で出会う人との交流を通してコミュニケーション能力など人間関係を形成する力を育てることで、豊かな心を育成する」
どうやら、広島県の教育委員会が推進している野外活動の一環で、令和2年ごろから県内の公立小学校で実施されるようになった事業だ。
おそらく、呼び方を変えれば「林間学校」、少し砕いた表現をするならば「ボーイスカウト」である。
修学旅行のように、その土地の歴史や文化に触れるという行事とはやはり別物であり、野外宿泊活動ということに特別な意義があるのだろう。
自然と触れ合うことで環境や資源の大切さを知る。
レクリエーションや料理などに挑戦し、集団活動を通じて、友人や教師との関係を深める機会を得る。
それが「山・海・島」体験活動のようだ。
バスに乗って国立三瓶青少年交流の家へ
小学校に集合した娘たちは、バスに乗って島根県の国立三瓶青少年交流の家へ向かった。2時間30分の旅路だ。
この交流の家は大山隠岐国立公園内にある三瓶山の林に囲まれた山麓にあり、まさに大自然を身近に感じられる宿泊施設だ。
★興味がありましたらこちらへ→ 国立三瓶青少年交流の家HP
体育館や音楽棟、広場やテニスコートなど、活用できる施設がたくさんあるので林間学校だけでなく、家族で宿泊したり、クラブ活動の合宿などにも多く利用されている。
娘が到着した時も、他の小学校からの団体客や大人のグループも滞在していたそうだ。
私も中学生のころ、生徒会の合宿で訪れたことがある。
オリエンテーリングとして山道をハイキングした。
まだあまり話をしたことのない生徒や先生と自然の中で交流することで、少し仲良くなれたような気がしたものだ。
漠然とした感想だが、自然の中では普段閉じている心が少し解放される。それが一緒に活動する相手へ向けて開かれれば、人間関係にプラスに作用するのかもしれない。
交流の家ではさまざまな活動プログラムが組まれている。
私が経験したハイキングもこのプログラムのひとつだった。
他にも牧場体験や、島根だけに神話巡りなど多数のプログラムがあり、手軽にグループ活動を楽しみたい場合には最適な環境が整っている。
娘たちは、SAP(Sanbe Adventure Program)と呼ばれるゲーム、カプラ、野外炊飯、勾玉づくり、そしてキャンドルの集いを体験していた。
野外炊飯以外は、食堂で食事となる。食事はビュッフェ形式。
食べたいものを食べたい量だけ取って食べられるので、こどもたちも慣れない環境ながら無理せず食事ができて良かったようだ。
スタンツで盛り上げる
こどもたちのスケジュールの中に、スタンツ練習というものがある。
スタンツとは、キャンプファイヤーを盛り上げるためのゲームや歌や劇などの出し物のことだ。
体験学習2日目の夜に行われる「キャンドルの集い」で披露するために、グループごとに分かれて練習する。
娘のグループは寸劇をしたようだ。
タイトルは「芋けんぴ大魔王」。キャッチーなネーミングだ。
芋けんぴを何より愛する大魔王を勇者一行が征伐するストーリー。
このシナリオの大魔王は、配下に芋けんぴを買いに行かせ、好みの味ではないと配下をクビにするブラックさを見せるが、他にこれといった悪さはしていないうちに勇者たちに討伐されてしまう。少しかわいそうな役どころだ。
娘は、勇者一行がピンチの際に、回復魔法をかける魔法使いの役だったと、少し恥ずかしそうに教えてくれた。
他のグループも、コントや改変した桃太郎の劇など、それぞれに工夫した出し物を発表したようだ。
娘によれば、自分たちの寸劇が一番面白い出来だったと評していた。
きっと、みんな自分のグループが一番だと思うのだろうし、そうであってほしい。
そして、全員で「キャンプだホイ」「遠き山に日は落ちて」を歌い、最後の夜を締めた。
野外体験活動の魅力
私も娘もアウトドアな人間ではない。どちらかといえば休日は家から出たくない。生粋の引きこもり体質である。
そんな我ら親子でも、キャンプや今流行のグランピングには心惹かれるものがある。いつかやってみたい、そのうち挑戦しようと理想を語りつつ、未経験者には一歩踏み出すことにもハードルが高いのが現実だ。
私にはなかなかチャンスはないが、娘はこの夏、「山・海・島」体験活動を通して、何かを得られたのだろう。
慣れないベッドで眠れない夜を過ごして、眠れた途端ベッドから転げ落ちたことも。向かいのベッドで友達も落ちていたことも。
食事の時の牛乳がとにかく美味しくて驚いたことも。
野外炊飯でごはんを炊いている中、張り切って風を起こした男子に火を消されたことも。
そして、魔法使いになったことも。
家でも学校でも過ごせない新しい経験は、確実に未来へのハードルを一段下げただろう。
これから新しいことに挑戦できる力の一部になったのではないか。
来年の夏は、家族でキャンプもよいかもしれない。
そう想う夏だった。